掛け算SS
□幸福の空弔い
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ごく当たり前に描いていたビジョンに対する現実の反応を言葉にするならば“ずれ”で、えも言われぬ都合の良いその輪郭は瞬く間にしぼんでいった。
ふれる前から流されてしまった未来はシビアな過去で「後悔」を堰き止めているのかもしれない。
まだそう多くは望んでいない駆け引きを持続しているはずの今日から一回りした今日を迎え、ただ叶わない願いが胸を衝く。
どうか、拭い切れない濁流が溢れるなら傷の浅いうちに。
いつかの盲目の時代に重ねた日々が雑踏に見え隠れする。
互いが同じ心持ちで、同じ轍を擦り減らし、明日を話した。
自身と向き合えば空から一縷の糸が落ちて来るのかもしれないが、まだ幼い自分は己を巣食う、大きな存在に思考の暇を塗り潰されている。
相手にふれて形状記憶されていた空間に収まった、追わぬ後ろ姿と入れ違いの苦い後ろ向き。
例え運良く機会が手のひらに転がったとしても「どうしてそれを欲したのか」と問って、その手を開いてしまうだろう。
あの時離した手のように、そっと。
自分で相手の今が成り立っているのか、相手で自分の今が成り立っているのか、
自分が望む繋がりの在り方は何なのか。
そう、どこかで何か違うと気付き始めたから、歩幅は自然と狂っていったのだろうか。
目にしたものが何であれ、良い印象を受けているはずはなく、反応も見ずにただ自分に責任をなすりつけ身を翻す。
自己犠牲という言葉に良い印象を受けないのに、その言葉が酷く似合う気がして。
相手の為は、自分の為。
自分の為は、相手の為?
だれが幸福でいればいいのかだなんて、自身にだけ難解な問題。
堂々巡りが繰り返されて、描かずとも当たり前にやって来るビジョンは昨日のような新しい朝を映す。
また明日がやって来るのが。
ずっとさよならじゃなくて、一時のさよならなのが。
自分の首を絞めている。
2009,12,5