掛け算SS

□悉無律
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咄嗟の状況判断による出来事。
単純な事から繋がれた手はしばらくその状態を維持していた。
しかし確かに脳へ信号として送り続けられるその感覚は反射を起こさせた。

「……あ、悪い、長門」
「……いい」

彼だけに働く反射は腕を引っ込めさせた。
しかしわたしには働かず、かわりに胸に送られたそれはわたしの足を止めた。
――自分が、速い。
ニューロンは胸にも興奮を伝達させるのか。
発生頻度の増える波は全を導き出し、わたしを不確かにする。

閾値の、胆略。
全か無か、二つに一つの反応。
彼の存在は感じられる距離にあり、
一体それはわたしにとってどのような事を意味するのか。

「……長門?」

彼は眉を下げわたしの瞳を見た。

「どうした、大丈夫か?」

逸る理由は見つからず、
体温を上昇させる原因も分からず、
ただ出来るのは胸の奥に寄り添う事だけ。

「……平気」

全か無か。
有り得ない事に、それ以上が顕わなわたしは。

「そうか、無理するなよ」

今一度、バグを起こしたりするのだろうか。


2010,2,4
人間として当たり前の感情なんだけど与えられた知識と違うから戸惑う長門

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