掛け算SS

□生れたければ生れてみよ
1ページ/1ページ

超常が日常に。
『別のものに変わった』とも『在り過ぎて慣れた』とも言えるが、少なくともそうであると思う者の前には当然の事象として存在する。
あるべきものとしてごく普通にその世界が成り立つ。
自然にその世界にことが生み出されるわけではなく必ず、そこに居る“なにか”が雫を落として波紋が理を侵すように広がるのだ。
例えば蝶が舞えば竜巻が起きるように、誰かにとっては悪因に。
例えば朝が来れば総てが起動するように、誰かにとっては希望に。
例えば種を蒔けば芽が出るように、誰かにとっては将来に。
難しい事ではない単純な仕掛け。それはもう、魔法のような。
“動き”を世界の回転に必要としないのであれば、出来上がっている世界そのものを否定することになる。
創造主は俺達すべてで、『一番』が俺達すべてで、互いに認め合う事で非を是を理解する。
自己同一性が同位体を生むことを避けたのだ。
きっとすべてが同じだと俺達は考えなど持たないし、
きっと我がSOS団と、――涼宮ハルヒと共にする事もなかった。
彼女が創造主の創造主だとしても、すべての命運を握っていたとしても、望む通りにすべてが進んでいたとしても、
俺の意思は何者にも干渉されていなく、されない自信がある。
俺の意志は何者にも影響されていなく、されない自信がある。
それもまた、否定するならそれまでの世界が崩壊するからだ。
今までの経験からも、俺の交わった超常が理屈を超えた定理にそぐわないものだと解っている。
第一、ハルヒが在った世界の完全なるCPU化を望むだろうか?
この二年間で俺が感じていたものをあいつは確実に感じているだろうし、
――俺は彼女を好いている。
他者からの予期しない想定外があって、自己で達成した証があって、この世界はおもしろくなっていく。
それが、人生ってものだろう?



隣の彼女は薄く笑い、俺の手をつけたばかりの檸檬水を口元に寄せた。

「莫迦ねぇ、結局消費者なんだからそんなに頑張らなくても良いのに」
「生産者のおまえばかり頼るのも情けなくてな」


あら、と女は意地悪そうに俺に覆い被さった。


「生れたければ生れてみよ」


11,11,10

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ