無双恋物語

□【移り香】
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気付いた時には、君は彼のものだった。
いつ想いを寄せあったのかは分からないけれど、君の笑顔を見るたびに心が黒く染まっていくような感覚に囚われる。

今も、和やかに君とお茶を飲んで笑っているけれど、君から彼の香りがして、私の心が黒く染まっていく。

「…清正、君って煙草吸っていたかぃ?」

仄かに苦い香りが君からした。

「…いいえ、多分秀吉様の移り香でしょう、最近よく吸っているので。」

そう言って君はありきたりな嘘を言って笑う。
私が君の嘘に気付かない訳がないのに…。

「へぇ、秀吉公がね。」

「…えぇ、考え事をしている時によく吸っています。」

そう言って君は、笑いながらお茶を飲む。

それで私に隠しているつもりなのかな?

「…私はてっきり、氏康の煙草の香りが移ったのかと思ったよ。」

そう言ってあげると清正の動きが少しだけ止まったが、それを悟らせぬように何食わぬ顔でまた一口お茶を啜る。

駄目だよ、こんな事で動揺しちゃ。
「…何で、氏康公が出てくるんですか。」

「何で、だと思う?」

わかっているだろう?と暗にそう言ってみる。

「…わかりません。」

それでも君は、私に、他の誰にも知られないために、氏康のために、誤魔化すんだね。

其が、とても苛つかせる。

「わからない、はずがないだろう?」

そう言って私は立ち上がり清正のもとへ行く。
清正のお茶を倒してしまったが、そんな事、今はどうでも良い。
私の行動に驚いたのか、清正は少しだけ後退りした。

「もと、なりこう。」

突然の私の行動に、清正の目には困惑の色が浮かび、少しずつ私から距離を取る。

あぁ、君のその顔が

「ねぇ、清正。」

清正の手を掴む。

逃がさないよ?

「元就公、あの、離して、下さい。」

そう言って、少しだけ身を捩らせ私から逃れようとする。
困惑の瞳で私を見つめる。

「ねぇ、清正。」

ビクリと震える清正に優しく触れ、耳元で囁く。

「ねぇ、何で?」

−何で、氏康を選んだの?−


  
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