記念書物
□ホットチョコの優しさ
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【ホットチョコの優しさ】
如月の十四日。
今日はバレンタインとか言う行事。
妙齢の女人が意中の男にチョコを渡し愛の告白をすると言う、菓子業界の陰謀で出来た行事。
まぁそんな行事があろうがなかろうが陰陽神職たるこの結野家には無縁な話だ。
まぁ、それでも、この時期になると舘が少々騒がしかったり、甘い臭いがしたり、何やらピンク色のオーラが見えたり…。
って誰だ女連れ込んだ奴!!
わしだって銀時とイチャイチャしたいんじゃ!!
そう思い、半場八つ当たりの勢いで書類を纏めていく。
会えないのはわかっている。
あやつも万事屋の仕事で今の時期はかき入れ時で忙しいし、わしも江戸を護るため結界や町の守護、式神での調査やらで忙しい。
いや、ほら、それに日本人じゃし?
もともとチョコを貰う文化じゃないし?
べ、別に貰わんでも大丈夫と言うか、そんな行事に浮かれるほど、子供じゃないし?
そもそもお互い忙しくて会えない、し。
じゃが、そうは思っても欲しいと、会いたいと思ってしまうのは、わしの我が儘かも知れん。
そう考えては思わず溜め息をつき、此ではいかんと、背を正し、書類に目を向けた時に慣れ親しんだ声が部屋に響いた。
「晴明様。」
「ん?なんじゃ外道丸。」
現れたのは我が愛しの妹、クリステルの式神、外道丸であった。
「クリステル様より今年のバレンタインチョコをお持ちしたでござんす。」
そう言って可愛らしい包みを手渡された。
「おぉ!!すまんのぅ外道丸!!」
毎年毎年、この兄にこうやってチョコをくれる妹は本当に可愛いっ!!
バレンタインとか言う行事は好かんが、妹から貰うチョコは別じゃ!!
「今年は手渡し出来ずに申し訳無いとクリステル様がおっしゃっておりました。」
「よいよい、あやつも忙しい故に、仕方なかろう。この心配りが何より嬉しい。」
そう言って、包みを開け、中のチョコを一つ食べる。
うん、美味いっ!!
「晴明様、クリステル様より伝言がござんす。」
「ん?伝言?」
「『雨宿り侍さんからチョコ貰えると良いですね』だそうでござんす。」
「ムグッ!?」
思わず食べていたチョコを喉に詰まらせてしまった。
「ゲホゲホッ、な、何を言って、と言うか、何故知っているのじゃ!?」
クリステルに銀時との関係は言っていない。
相手は結野家の、クリステルの恩人、ましてや同性同士の道ならぬ恋だ。
兄がその様な恋をしていると解れば、クリステルが気負いするであろうと隠していたのだが…。
「あっしもクリステル様も、とっくに知っておりました。」
「マジでか!!」
「あっしもクリステル様も応援しております。晴明様、銀時様から貰えるとようござんすね。」
そう言って、外道丸はクリステルの元へと帰って行った。
わしはあまりの事にその場で固まってしまった。
いやいやいや、とっくに知ってたって。
どうやって知ったんじゃ?
それに応援するって…。
クリステル、外道丸…。
暫く放心した後、わしは、現実逃避をするために、山と積まれた仕事を片っ端から片付けていった。