記念書物

□【甘い・苦い・あまい】
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【甘い・苦い・あまい】

静かにチクリチクリと刻む時計は、もうすぐ0時を指す。

楽しくて嬉しくて恥ずかしかった宴も終わり、酔い潰れた野郎共はそのままにして神楽とお妙をババアの座敷に寝かせてから俺は一人万事屋に戻り、明かりもつけずに長椅子に座る。

チクリチクリと時計の音が大きく響く部屋であの馬鹿を待つ。

後2分で今日が終わるその時、カツンカツンと階段の騒がしい音が鳴る。

後1分、腹いせに鍵を閉めた玄関から物音がする、アイツにやった合鍵がカチャリと錠を外す音と乱暴に開けられた戸の音が響く。

後30秒、バタバタと足音と息切れの呼吸が近づいてくる。

あと20秒…。

「銀時っ!!」

「遅ぇよばかっ」

『馬鹿ヤロー』と続くはずの言葉は口で塞がれた。

触れるだけのキス。

後5秒、触れた口を離す

「誕生日、おめでとう、銀時。」

カチリと針が重なって日付が変わる。

「お、遅ぇんだよ、ばか。」

「悪ぃ、本当にギリギリになっちまったな。」

そう言って俺を抱き締めもう一度キスをする。

「んんっ。」

今度は深く。

「ん、はぁ、苦ぇ。」

相変わらず苦いタバコのキス。

「此が俺の味だからな、それに」
好きだろ?そう言ってまたキスをする。

苦くて、でもどこか甘くて…。

「ん、苦ぇ。」

「お前は甘いな。」

「当たり前だろ?」

そう軽口を叩きながらまたキスをする。

甘い、苦い、キス。

「誕生日、おめでとう。」

「…ありがとう。」

苦いけど、溶けちまいそうなドロドロに甘いキスだ。

「来年は、2人で祝いてぇ。」

「あ、悪ぃ新八達に約束しちまった。」

『来年もやりましょう。』
『絶対やるネ!!』
そう笑顔で甘い事を言ってくれた子供達。
そう言うと眉間に皺を寄せているから思わず笑った。

「んだよ。」

「悪ぃ、けどさ、夜は空けとくからさ。」

「おぅ。」

「また来年も祝ってよ。」

「おぅ。」

「だだし来年はギリギリじゃないようにな。」

「…善処する。」

「そこは絶対に行くとか言えよ。」

「…っ絶対に空けてやるよ!!」

「約束な、十四郎。」

「っっオメェ!!それ反則////」

顔を真っ赤にしたアイツが面白くてまた笑った。


生まれたことに感謝しよう。

アイツ等に
そしてコイツに

祝ってもらえる甘い幸せ。


おしまい。

 
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