無双恋物語

□【秘め椿】
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露に濡れた椿は、何とも艶やかで美しく。

【秘め椿】


親しい者以外は滅多に人が来ない元就の私室がある離れの間。
空が茜色に染りはじめた早朝、元就は椿を見に庭に出ていた。
朝露に濡れた紅い花は艶やかに咲き、美しいそれを元就は眺めていた。


「毛利公。」

不意に呼ばれて振り返れば、年下の恋人が立っていた。
 

「清正、ここには誰も来ないから呼び捨てで構わないよ。」
「ですが…。」

2人は恋仲であるが、所詮赦されぬ恋である。
それでも諦めきれぬと、密やかに付き合っている。
逢い引きや蜜事は人目を憚る夜で、昼間は毛利家当主と豊臣家臣としての振る舞いである。
早朝とは言え、いつ誰が来るかわからぬと気を使う清正に、元就は苦笑する。

「恋仲の相手に、そんなよそよそしい態度を取られたくないんだ。」
 
「寂しいだろう?」と言う元就に、清正は戸惑いながらも名前を呼ぶ。
 
 

「元就、殿。」
「呼び捨てで。」
「っ、もと、なり。」
「小さくて聞こえないよ?もう一回言ってくれないかい?」
「っつ!!」

人が来ないとはいえ、気が気でない思いと、改めて名を呼んで気恥ずかしくなり顔を真っ赤にする清正。
そんな清正を愛しく思い抱き締める元就。
更に赤くなる清正。


「なっなっ!?」
「清正?呼んでくれないかぃ?」

元就に優しく抱き締められ、耳元で甘く願いを囁かれれば、清正が拒めるわけもなく。

「〜〜〜っ、元就。」
「ん、清正。」


甘くて、幸せな朝の一時。
元就は椿のように紅い清正を抱き締め、綺麗な椿の花をニコリと−けど目は鋭く−笑いかけた。
 



 
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