宝物庫

□三分だけの記念日
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「官兵衛。」

清正が名前を呼ぶと玄関に居た官兵衛は僅かに振り返った。

「…今日、帰り何時頃になるんだ?」

官兵衛は一瞬だけ清正の顔を見てすぐに前に向き直る。

「分からん。」

清正は手を後ろに回して握る。内心の怒りを隠し官兵衛の背中にできるだけ無感動な声で話しかける。

「なるべく早く帰って来いよ。あと帰る一時間前には電話しろ。」
 
官兵衛は聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で返事をしてすぐに出て行った。完全に扉が閉まってから清正はわざと大きな足音をたてながらリビングに入る。とりあえず目に入ったクッションを床にたたきつけた。床で跳ねるクッションを見ながら一つ溜め息をつく。

「あの、仕事人間め。」
 

清正が朝っぱらからイライラしているのは先程出て行った官兵衛について。実は今日は官兵衛と清正が一緒に住み始めて一年目の…いわゆる記念日と言うやつだ。しかも運の良いことに休日。二人きりで過ごせると思っていた清正に、官兵衛は昨晩こう言い放った。


『明日、仕事が入った。』

持っていた味噌汁を官兵衛の膝にこぼしながら清正は何とか平静を取り戻し、笑顔をひきつらせながら官兵衛に問いかける。
 
『い、一日中…?』
『…になるかもしれんな。』

思わず床に落ちてたワカメを投げつけたくなる気持ちも分かるだろう。官兵衛にとってはたまったものじゃないが。

それから夜の間中清正の気持ちが晴れることなく、朝は感情を殺しながら官兵衛を見送る羽目となった。

「ただでさえ土曜日は毎週のように出てんのに何で日曜日まで仕事するんだ…。」

ブツブツ文句を垂れ流しながらインターネットでお祝い料理のレシピを見てるあたり清正も素直じゃない。なんだかんだで惚れた弱みというやつだろう。

何枚かレシピを印刷しながら考える清正の頭には既に今日の予定が組み立てられていた。実は約束を破られるのは慣れっこだったりする。

「ま、官兵衛も遊びに行くわけじゃないしな。」

一人で呟いて、買い物に出る。とりあえずは一人の時間を乗り切らねば。
 
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