蝶の軌跡を彩る鱗粉
□教育的指導2
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「テック、そこに座れ」
「え………?」
リビングに行ったら、真面目な顔をしたアースに呼び止められて、ソファに座る
俺、何かやったかな
というか、アースとはあまり話さないから、怒られるようなことはしてないはず
「………なに?」
「テック、お前は…」
だけど、アースの声がいつもよりも低い、…気がする
俺…やっぱり、何かしたのかな?
膝の上に置いた手が強く握られる
アースがゆっくりと口を開いた
「妹か弟が欲しくないか?」
「………っえ?」
え、なに?妹?弟?
欲しくないか?って、なに?
俺今きっと、変な顔してる
「俺は、妹が…娘がいいな」
アースは顎に手を当てて、なんか納得したみたいに話してるし
娘…って事は、アースの子供なのかな?
「なぁテック、お前はどっちがいい?」
「…ねぇ、本当に出来るの?」
「あぁ、絶対だ」
「そっか……」
アースははっきり断言した
実はちょっと嬉しかったりもする
この家で俺は一番年下だから、フェイには…無意識だって知ってるけど、ノワールとブラン以上に子供扱いされる
妹か弟が出来たら、子供扱いもマシになるかもしれない
フェイには、…あんまり子供扱いされたくないし
「俺は、……あ」
「ん?どうしたんだ?」
「アースさん?」
「っ!!?」
顔をあげると、アースの後ろに買い物袋を持ったフェイが立ってた
「ぇと、…おかえり」
「早かったな、フェイ」
「ただいま。…ところでテックさん、今アースさんと何のお話をされていたんですか?よかったら教えて下さい」
フェイは優しく話してるけど、アースが難しい顔をして固まってる
なんでだろう?
「なんでもないお話とか、大事なお話でしたら、無理に言わなくてもいいですよ」
「なんでもないよな!な?テック」
「え…うん?アースが『妹と弟どっちが欲しい』って聞いてきただけ」
「ばっ…!!?」
「……アースさん?」
フェイに呼ばれて、アースが気まずそうに目を泳がせてる
フェイからは冷たい空気が流れてくる気がするし、なんか変なこと言ったかな?
「すいません、テックさん。コレを台所に置いてきてもらってもいいですか?テーブルに置いておくだけでいいので」
「ん、分かった」
フェイが差し出した買い物袋を受け取ると、「ありがとうございます」とお礼を言われて抱きしめられた
その度に、子供扱いされた気分になる
多分…きっと、いや、絶対にフェイは気付いてないだろうから
「あ、アースさん。貴方には大事なお話があるので、そこに居て下さいね」
「いや、でも……ほら、俺は仕事が」
「いいから、居て下さい」
「………はい」
ソファから立ち上がったアースに、フェイがいつもより冷たい声で言った
アースも大人しく従ってる
珍しい光景だけど、それよりも、俺はいつまで抱きしめられてるんだろう?
フェイに抱きしめられるのは嫌じゃない
温かくて、いい匂いがするし、なんか…くすぐったい感じだし、でも
「あ、あのさ、フェイ。離してくれないと、動けないんだけどっ…!」
「あ…それもそうですね。すみません。じゃあ、お願いしますね」
「う、うん!」
離されて、台所に走っていった
フェイの中で俺を抱きしめるのはデフォルトらしいから(って前にアースが言ってるのを聞いた)、本当にフェイは何も気にしてないんだろうけど
「俺ってそんなに子供なのかな…?」
フェイはいつも少し屈んだりして抱きしめるから、胸が顔に当たる
だけど俺だってわざとじゃないし、というか、フェイが抱きしめてくるんだし
あーでも、そんな事を考えてると自分が本当に子供で、フェイに子供扱いされるのも仕方がない気がしてくる
早く子供扱いされないようになりたい