蝶の軌跡を彩る鱗粉
□素直じゃない1
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人の来ることがない砂浜で絶えることなく聞こえる笑い声
「毎日楽しそうね。…そういえば最近、王子の姿を見ないわ」
「…忙しい、みたいですから」
何気なく口にした言葉に、少しだけ淋しそうな表情を見せ答える
「あの家臣の目を盗んでは城を抜け出していた王子が忙しい、ね」
貴女を構わずに忙しいなんて、最近の安定しない天候は彼のせいかしらね、心の中で言葉を続ける
「(私の可愛い妹を淋しがらせるなんて、いい度胸じゃない)」
「ところで、どうして姉さんはアースさんを"王子"と呼ぶんですか?王位継承は済まされているんですよ」
「そうね、でも『国王陛下』なんて長くて呼びにくいじゃない、こっちの方が呼びやすいのよ。そんな事より、話があるんでしょ?」
話を切るように話題を変えるあの子に合わせる
「はい。姉さんに訊きたいことがあるんです」
真面目な表情で一度言葉を切り、小さく息を吐く
重要な話、という所かしら…2人にとっては、ね
「あの、「王子との事でしょう」
さらりと告げられた言葉に顔を上げ「なんで分かったの!?」といった表情で私を見る
そんなに驚かなくても、今の貴方の相談事くらい簡単に分かるわよ
「風の噂好きは知ってるでしょう?最近は、王子と貴女の結婚はいつなのか、そればっかりよ」
「そうなんですか…?」
耳に手をあてて、風音に耳を澄ませても
人間になった貴女には聴こえないでしょうね
「そうね…王子と話がしたいわ」
「…アースさんと、ですか?」
「そう…直接、言っておかなければならない事があるの。呼んできて?」
「?…分かりました」
不思議そうに、それでいてどこか嬉しそうな表情をしながドレスに付いた砂を払い、城へと駆ける
貴女が"幸せ"なら、結婚に反対する気は欠片もないのだけれど
それは結果、王子の"幸せ"ともなる訳で
「…私の可愛い妹を簡単に手に入れられるなんて思わない事ね」
そう、砂浜から城に向かい告げる