蝶の軌跡を彩る鱗粉

□雨の温度
1ページ/2ページ



自宅の室内、ふいに肌寒さを感じ窓の外に視線を移すと

「雨か…」

いつの間に降ってきたのか
空は黒く、どしゃ降りの雨が窓を叩いた

時計を見れば7時を過ぎたばかり

「…遅いな」


昼過ぎに掛かってきたフェイからの電話

『っ…あの!あ、後で…会いに行って、も…いい、ですか…?』

他愛もない会話が終わる頃に唐突に告げられ、何も考えずにそのまま承諾してしまったが

「………迎えに行けば良かった」

容赦なく窓を叩き付ける雨
昼は雲ひとつなく晴れていたし、そんな離れた場所に住んでいる訳ではないから大丈夫だと、気を抜いていた

せめて来る時間を聞いておけば、もう少し落ち着いて待っていられたんだが

この雨だし、来るのを止めたのかもしれない。だが、フェイなら連絡のひとつもするだろう

何かあったのだろうか?今からでも迎えに行くべきか、そう思い近くにあった上着を掴み、勢いよく扉を開く

「あ!…アースさん?」

「フェイ!?」

すると、不思議そうな顔をしたフェイが、大きめの袋を抱えながら立っていた

「あ…すいません、こんな時間に。もっと早く来るつもりだったんですが…」

「いや、いい。そんなことより早く入れ」

言いながら、大分冷えた手を引いて室内にいれ、少し乱暴に扉を閉める

「あの、アースさん」

「話は後だ。とりあえず風呂で暖まってこい、このままじゃ風邪を引く」

何か言おうとしたフェイから荷物を奪うように取り、風呂場まで連れていく

「すいません、床が濡れてっ…」

「拭けばいい」

床を気にしてる場合じゃないだろう
雨で冷えて顔は蒼白くなり、身体は小刻みに震えているというのに

まだ何か言いたそうなフェイを脱衣場に入れ、その間に着替えを用意する
なにか仕立てもいいが、力一杯遠慮されそうなので、とりあえずシャツで我慢してもらおう

「フェイー、開けるぞ?」

もう風呂に入ってると思うが、念のためノックをして声を掛けると

「あ、ちょっ!まっ待って下さっ…!」

慌てるフェイの声。と、何かぶつけるような音が聞こえた気がする
扉を開けたフェイは、さっきと変わらぬ濡れたままの姿だった

「もう出た…って、訳じゃないよな」

「ち、違います。服が濡れていて、脱ぎづらくて…って、あ、ああアースさん!?」

「なんだ?」

言葉の途中で、フェイの服を脱がし始める

「なんだ、って!あっ…な、な…なに…?ゃあ!手、放しっ…!」

「上だけ脱がすから暴れるな」

いつまでも濡れた服を着せたままには出来ない、フェイを見ないように気を付けながらスカートを捲り上げる

「ゃん…あ、わっ…アースさっ…私、…ひ、一人、で…出来ますっ…からぁ!」

が、水を吸い重くなった服が肌に貼りついて、かなり脱がしづらい

しかもフェイが服を押さえているから、余計脱がしづらくなっている

「フェイ、手を放せ」

「え、や、やっぁ…!あ、わ…あ、アースさん!?や…ちょっ…ぃや!?」

俺を押し退けようとしたから、その両手首を頭上でまとめ、片手で脱がせていく
すると身体を強張らせ、時折俺の名前を呼びながら、言葉にならない声を上げる

突然脱がされ始めて素直に従うとも思わないが、そこまで抵抗することもないだろう

さすがに…少し傷付く、な

「ほら、後は……っ!!」

ワンピースの裾を胸元まで上げて固まる

「あ、ゃ…アース、さっ…んぁ」

不安に揺れる視線、恐怖に潤む瞳に俺を写し、熱を含んだ切なげな声で呼ばれる

「!?フェイ、すまんっ!ぁ…と、着替えっ…ここに置いてくからな!」

まともに見ていられずに、シャツをカゴに掛けて慌てて脱衣場を出る
そのままリビングまで行き、ソファに座り込んで頭を抱える

「何をやってるんだ、俺は…」

別にわざと見た訳ではない、そう自分に言い聞かせてみるが、
薄手のキャミソールに透ける肌の色、濡れて艶めかしさを増す白い肢体、寒さか恥ずかしさからなのか小刻みに震える身体

『あ、ゃ…アース、さっ…んぁ』

どこか艶のある声と濡れた唇

「〜っ…!やばい…」

もしフェイが名前を呼んでくれなかったら、理性は音を立てて崩れ、その場で襲い掛かっていたかもしれない

とりあえず落ち着こう

このままでは風呂から出てきたフェイに、何もせずにいられる自信がない

目を閉じて、ソファに身体を預けた

雨音を聴きながら、心を落ち着かせる

静かな室内、耳に届くのは時計の秒針と
雨かシャワーか…心地よく響く水の音だけ

ゆっくりと、眠りを誘う音だけだ


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ