UnderTale

□終わりよければ 前編
1ページ/1ページ


Ruins(ルインズ)の自宅を出て、徒歩数十分後にある雪に包まれた町、Snowdin(スノーフル)。
しんしんと雪の降り積もる、静かな町のとある一軒家の前で、アンダインとアリアルは、ばったりと鉢合わせていた。


「ハーイ、アンダイン」
「あ、あぁ、ニンゲンか。奇遇だな、こんなところで」
「ちょっとサンズに呼ばれてね……アンダインは?」
「アタシはパピルスに遊びに誘われたんだ。」


魚系のモンスターであるアンダインと、Humanであるアリアルに、スノーフルの寒さは堪えるところがあるのか、二人とも若干厚着だ。
普段、王国騎士の鎧姿しか見ていなかったアリアルは、私服のアンダインが珍しいのか、失礼かとは思いながらも上から下まで何度も見返してしまった。


「珍しいね、アンダインが鎧姿じゃないの」
「今は仕事じゃないからな、アタシだっていつも鎧姿じゃないんだぞ
 それに、と……友達の家に遊びに行くのに、仕事服は可笑しいだろ」
「ふふっ!それは確かにそうだね(アンダイン照れてるなぁ)」


友達、という言葉には未だに慣れていないのか、どもりながらもパピルスを「友」と呼ぶ姿が微笑ましく、アリアルは思わず笑みを浮かべた。
それにまた照れたアンダインは「わ、笑ってないで入るぞ!」と、骨兄弟の家のドアを蹴破るようにして入っていった。


「たのもーーーー!!!」


何処の道場破りだ
という突っ込みは、残念ながら誰もしない。
たとえ自宅のドアが見るも無惨な姿に変わり果てていたとしても、パピルスやサンズ達自身が気にも留めないのだ。
おおらかと言ってしまえばそれまでだが、それでいいのか、骨兄弟。


「おぉ!アンダインにアリアル!
 オレサマ達の家によく来たな!!」
「よぅアリアル、元気そうだな。派手な登場だな、アンダイン」
「ごめん、まさかアンダインがドアを蹴破るとは思ってなかった」
「いいや、いいさ。まぁ、おかげで家はスケスケで風通しがよくなったぜ、スケルトンの家なだけに」
「兄ちゃんそのジョークはいいよ!」
「お、今のそんなに良いジョークだっか?」
「そっちの"良い"じゃないってば!!」


hehと、片目を瞑りながらジョークを言うサンズ。どこからともなくドラムの音が響き、笑いを堪えたようなパピルスの声が飛び交う。

アリアルとアンダインは目を合わすと、漫才のようなやり取りをするスケルトン達を前に、思わず二人同時に吹き出した。
やんややんやと言い合っていたスケルトンは、大きな笑い声を上げるアンダインと、肩を震わせて笑っているアリアルを見て、おや、とアイコンタクトを取り合う。


(思ってたよりも仲良さそうだね、兄ちゃん)
(あぁ、オイラ達が手を貸すまでもなさそうだな、兄弟)


実は、アンダインとアリアルが鉢合わせたのは、偶然でもなんでもなく、パピルス達の企てによるものだった。

パピルスが立ち会ったことにより、アリアルとアンダインは晴れて友人関係になったのだが……。
それ以来、二人が話す機会はめっきりなかった。
勿論、アリアルは避けているつもりなどは全くないのだが、問題はアンダインの方だった。
そもそも、出会い頭に槍をぶん回したのはアンダインだ。アリアルが、敵意も悪意も全くないと解った今、話も聞かずにソウルを奪おうとしたことは、後悔してもしきれない。

とどのつまり、アンダインが一方的に気まずく思っている。


(でも、もう少し様子見しようか)
(そうだな、アンダインは素直じゃないから、オイラ達でサポートしないとな)
「Heh、それ見ろパピルス、二人はこんなにも笑ってるぞ
 きっとオイラのジョークが楽しかったんだな」
「兄ちゃんのジョークは、滑りすぎて笑えないよ」
「そう言う兄弟も笑ってるじゃねぇか」
「っぷふっ、も、もう二人とも黙ってて、それ以上喋られると・・ぶっ、ふふふっ……わ、わらいふぎて、お腹、いた……っひひっ!」
「に、にんげ……ぶっふふふ!お、おまえ…ぐふっ、笑いすぎ……っははは!!」


とうとう二人は、お腹を抱えて笑いだした。今なら箸が転がるだけでも笑い出しそうな勢いだ。
アリアルに至っては、笑いすぎてお腹が痛いらしい。お腹を抱えながら、右へ左へゴロゴロしている。二人が来る前に綺麗に床掃除をしておいて良かったと、パピルスは息を吐いた。

しばらく二人の笑い声が響く。ひとどおり笑いきって落ち着いたのか、肩で息をしながら、アンダインとアリアルはソファーに座り直した。
すぐ隣にアリアルが座っていることに気付いたアンダインは、無意識にだろうか、微妙な距離を空けて座り直す。
パピルスと話していたサンズは、その微妙な動作に即座に気付いていた。それに続いて、パピルスもサンズと同じように気付いた。
残念ながら、微妙に笑いが収まっていなかったアリアルは、それに気付いていないようだが。


「さて、それじゃあ今日も特訓しようか!アンダイン!アリアル!」
「おぅ!って、今日は遊ぶんじゃなかったのか?それにニンゲンも一緒に!?」
「ニェ?そういえば遊ぶんだったな!
 じゃあ、今日はアンダインの得意な料理を一緒に作るのだ!」
「おぉ、それならパスタを…って待て待て!だから何故ニンゲンが「まずは野菜を切るんだったな!ニンゲンはトマトを切ってくれ!」話を聞けパピスル!」


パピルスは、アリアルとアンダインの腕を掴むと、最近広く改築した自宅のキッチンへと連れていった。
トマトの入った皿を渡されたアリアルは、訳が解らずパピルスとトマトとを見比べる。
見かねたサンズが、アリアルの肩を叩いて何かを呟くと、少し困ったような笑みを浮かべて、彼女は小さく頷いた。






















ぐちゃぐちゃになったトマト。その他の野菜も同様に、何故か細かく切り刻まれている。
焼き加減を間違えたどころではない、何故か、真っ黒焦げになったパスタ(注:茹でたものです)。
どんな力加減で使えばそうなるのかと聞きたいほど、無惨な姿になっているフライパンと鍋。

どうしてこうなった、と、黒こげになったキッチンを眺めながら、サンズは遠い目をした。

パピルスが、アンダインから剣の稽古と称した料理を習っていることは知っていたし(パピルスのパスタの味付けは微妙だが)アンダインは料理が上手いんだろうと解釈していた(自分とは違って女だし)。
が、実際にアンダインが料理をしている所を、サンズは見たことがなかった。パピルスが一人でアンダインの家に行くため、彼女の料理の腕はパピルスがよく知っている。
だからこそ「ニンゲンも交えてウチで料理をしよう」というパピルスの提案は、良いものだと思った。彼がアンダインと仲良くなれたのも、料理を習うようになったからだ。

だが、まさか自宅がこんなことになるだなんて、誰が予想出来ただろう。


「とりあえず、うん……パピルス、アンダインさん
 片付けようか?」
「う、うむ、これは一度綺麗にしなくてはいけないな!」
「あ、アハハハハハ。そうだな!片付けるか!」


普段、目を閉じて穏やかな表情のアリアルが、とてつもなく冷たーい表情をして開眼していた。
パピルスだけでなく、アンダインも開眼したアリアルを見て、冷や汗を流している。その手にある掃除道具が、掃除道具ではなく鈍器に見えたのはきっと幻覚だ。

そうして、無言で片付けをすること数十分──
真っ黒焦げになっていたキッチンは、見違える程綺麗になっていた。壊れたキッチン器具に関しては、新しく買い直している。

アリアルは怒ると静かなんだな。サンズの心のメモに、新たな内容が書き加えられた。


「とりあえず、パスタはやめて、もっと簡単に作れるものにしよう」
「うーん、と言ってもなぁ……オレサマもアンダインも、パスタしか作ったことがないぞ」
「え、そうなの?」
(ということはもしかして、冷蔵庫の中は──)


パピルスに許可をもらい、冷蔵庫を開ける。何故かある大きなケチャップのボトルを除いて、殆どパスタの麺しか置いていない。
またしても、アリアルの表情がピシリと固まる。
さっきの野菜は何処から出したのだろう。という疑問と、普段彼らは何を食べて生活しているのだろう。という疑問が沸くと同時に。
しっかりと私が料理を教えなければ、という意志がアリアルに巻き起こる。

*貴女は『料理を教える』という決意で満たされた


「えぇと、とりあえず今の材料じゃパスタしか作れなさそうだから
 まずは買い物に行くところから始めようか」
「ニェッヘッヘ!皆で買い物だな!オレサマ楽しみだ!!」
「ま、待てアタシはまだ一緒に行くなんて……」
「四人分の料理を作るんだ。材料は多いだろうし、人手は沢山あった方がいいんじゃないか?」
「う"、た、確かにそうだが……」
「決まりだな!買い物用の袋を持ってくるから、少し待っててほしいぞ!」


何を作ろうかと思案しているアリアルは、いつの間にか持っていたペンを片手に、買い物リストを作成している。その後ろから、サンズはメモの内容を覗き見ていた。
大勢で買い物をすることにおおはしゃぎなパピルスは、買い物袋をとって来るために、慌ただしく2階へ上がっていった。
若干、置いてきぼりを食らったアンダインは、パピルスを呼び止めるため、中途半端に上げた片手を下ろす。
立ち尽くしているアンダインは、何をするべきか、何をしたらいいのかわからず、居心地悪そうにソワソワとしている。
そんなアンダインに気付いたアリアルが、彼女の方へ顔を向けて、ちょいちょいと手招きをした。
戸惑った表情を見せたものの、アンダインは素直に二人に近付く。メモにはまだ『野菜』の文字しか書いてなかった。


「アンダインが良ければなんだけど、私が好きだった料理でもいいかな?
 多分、これならモンスターの皆にも受けいれやすいと思うんだ」
「……まぁ、アタシは嫌いなものは特にないし、パピルスとサンズも特にないんだったら、いいんじゃないか」
「あぁ、オイラもパピルスも、特に嫌いなものはないからな、アリアルの作りたいものでいいと思う」
「よし、決まりだね!」


そう言うと、アリアルは慣れた手つきでメモ用紙に文字を書いていった
小麦粉、キャベツ、ジャガイモ、海老……。書き込まれていく材料は、どれもこれも、扱うことのない食材だ
何を作るつもりなのかさっぱりわからない。そう顔に書いてある二人の思考は、沢山の疑問符で埋め尽くされていた。


「なぁ、アリアル、これはいったい何を作るつもりなんだ?」
「ん、これ?これはね……「サーーンズ!大きい買い物袋が見当たらないんだがー!!」


と、アリアルの言葉を遮るように、2階へ行っているパピルスの声が響く。話の腰を意図せず折られたアリアルは頬をかいた。


「ま、それは作ってのお楽しみ、ってことで
 とりあえず、サンズはパピルスの所に行った方がいいんじゃないかな」
「Heh、そうだな、パピルスに任せてたら、探し物だけでトンでもなく時間がかかりそうだ」


「スケルトンなだけに」決まったぜ、とでも言うようにウィンクをしたサンズは、ツクテーンと、ドラムの音を残して2階へと向かった。
残されたアンダインとアリアルの間に、微妙な沈黙が訪れる。サンズめ、余計なことを……。


「あー、んー、ねぇアンダイン」
「お!?う!!何だ!!??」
「いや、そんな身構えなくても……
 あのさ、好きな食べ物ってある?流石に液状のものとか、パスタは入れれないけど、私の作ろうと思ってる料理には、色んな食材が入れれるんだ」
「好きな食べ物……」


そう言われて、アンダインの思考にパッと思い付いたのは、アルフィーが作るピンク色のクリームだった。けれど、それはきっと目の前のニンゲンには未知の食べ物……断然却下だ。
次に思い付いたのは、アズゴアも好きだった金鳳花のお茶。ただしこれは液状のものだ、液状のものは混ぜれないと言っていたため、残念なことにこれも却下だ。

うーんと頭を抱えるアンダイン。その様子をみたアリアルは、そんなに難しいことを言ってしまったか、と少し焦ったように身ぶり手振りを交えて話す。


「あ、でも、難しかったらいいよ!!
 もしくは、デザートも作ろうかなって思ってたから、それに入れれそうな物とか」
「デザート?何を作るんだ」
「んー、簡単にゼリーとかにしようかなって思ってる」


食後のデザートとは、随分と手の込んだ食事になりそうだ。そう思ったアンダインに、ふと、とある考えが浮かんだ。


「な、なぁそれ、金鳳花茶は使えないか?」
「金鳳花って……あぁ、アズゴア王も好きなお茶だったね。それならゼリーに出来ると思うよ
 あのお茶、ほんのり甘いし、ゼリーにはちょうど良いと思う」


アリアルは、アンダインの目を見てふんわりと笑った。金鳳花の花よりも濃い、トパーズの瞳がちらりと見えた。
その視線に、なんとなくアズゴアとの思い出のお茶を褒められているようで、くすぐったさを覚えたアンダインは、照れたように頬をかいた。
その時、タイミング良く2階からサンズ達が降りてきた。


「二人とも、待たせたな!!」
「パピルス、サンズ」
「悪いな、探すのに手間取った
 さて、買い物に行こうぜ」


財布をサンズが、ファミリー用の大きな買い物袋をパピルスが手に持つ。アンダインとアリアルは互いの顔を見合わせると、スケルトン達に続いて、家を出ていった。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ