UnderTale
□君の痛みを僕に分けて
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数日の大雪が嘘のように晴れた、とある日──
引きこもりがちで、若干気分が鬱憤としていたサンズは、久々の快晴にウキウキとした表情で散歩をしていた
お気に入りのピンクのスリッパを履いて、誰の足跡もない処女雪を踏み歩く
普段、落ち着き払っており忘れがちだが、サンズとパピルスは、モンスター達の間では比較的若い分類だ(人間よりは断然年上だが)
誰も周りにいないということもあってか、気だるそうににやけている表情が、いつもより生き生きとした少年のようになっていた
サクリと軽い音を立てながら、丸いスリッパの足跡が増えていく
丁度いい感じの釣り場に差し掛かったとき、珍妙な格好でプルプルと震えるアリアルの姿を見かけて、思わず身体を硬直させた
見てはいけないものを見た。気分はまさに、そんな感じである
「Ah〜、こんな所で何してるんだ?アリアル」
「うぇっへ!?
な、なんだぁサンズかー、びっくりした」
「おいおい、びっくりしたのはオイラの方だよ
いきなり大きな声だして、目が飛び出るかと思ったぜ」
「飛び出す目なんてスケルトンにないけどな」
*あなたはドラムの幻聴が聞こえた気がした
「さっむい、サンズ、寒いよ」
「こりゃ大変だ、風邪か?なんならオイラがあっためてやるぞ
いや、透けて風が通るから意味ないな
スケルトンなだけに」
*あなたはドラムの幻聴が聞こえ(以下略
風も吹いていないというのに、アリアルの心に、冷たい風が吹いた気がした。外気の冷たさもあってか、身体がぶるりと震える
「パピルスの気持ちが解った気がする・・・」とぼやいたアリアルは、思い出したかのように後ろを振り返ると
両足を前後に適度に開き、右手を上げて構えの姿勢を取って「ぬぬぬぬぬっ!」と、珍妙な掛け声を上げながら踏ん張った
何をしようとしているのかさっぱりわからないサンズは、先程から疑問符を飛ばすばかりだ
しばらく、その様子を見守っていたサンズだったが、踏ん張ることに疲れたアリアルが腰を下ろしたタイミングで、彼女の近くへと寄った
「で、お前さんはさっきから何がしたいんだ?オイラにはさっぱりわからないんだが」
「うー・・・笑わない?」
「笑わない笑わない(って言わないと教えてくれないからな)」
「う"ー」と唸り声を上げて、頭を抱えたアリアル。チラチラと横目でサンズを見ながら、話すかどうか迷っているようだった
しかしサンズも、ここまで見てしまっては。何をしようとしているのか気になるところで
ジーっと、アリアルのつむじを見つめる
やがてアリアルは、サンズからの無言の圧力に負けた
「ん、ママって炎が操れるでしょう?
その時のママ、凄く綺麗なんだ。片目が緑色にキラキラ光ってさ
サンズも、アンダインも、皆キラキラ光ってる、でも──」
「私だけ、それができない、できないのが、少し寂しいなって思ってさ」
いつもの、ふにゃりとした笑みではない、どこか淋しげな笑みを浮かべながら、だから今練習中なんだ。と、彼女は言った
ニンゲンとモンスターでは、存在の造りが違う
モンスターが純粋なソウルの塊・・・魔力の塊であるとすると、ニンゲンは謂わば『不純物の混ざっている』存在だ
本能的に、魔力を関知できるモンスターとは違って、アリアルが魔力を操るのは難しい
「Huh・・・なるほどな
オイラ達モンスターは、ソウルによって存在が維持されている
だから生まれつき魔力の使い方がわかるんだが、ニンゲンは少し違うからな」
「うーん・・・そっかぁ・・・」
「ニンゲンは少し違う」
サンズの言葉に、ほんの僅かではあるものの、アリアルの気分が落ち込んだ
肩を軽く落として、シュンとするアリアルを見て、サンズは、ばつが悪そうに頬をかく。悪気があったわけではないが、今のはデリカシーに欠けていた
「Ahー・・・違うって言っても、同じようにソウルを持っていることに変わりはないからな
ただ、人間の身体の構築にはソウル以外のものもあるから、それが魔力の放出を少しだけ妨げているだけだ
時間はかかるが、やり方さえ覚えれば、お前さんでも魔力は使えるぜ」
「本当に?」
「Heh heh、オイラはジョークは言っても嘘は言わない主義なんだ
一緒に頑張ろう、アリアル」
だから、そんな泣きそうな顔するな
溢れそうな程に、瞳に溜まった涙を、スッと右手で掬い上げる
薄々気付いてはいた、笑顔の裏で、自分たちモンスターと"違う"ことへ、アリアルが暗い感情を抱いていたことに
けれども、それでも泣くことは今までなかった
だから、勝手な憶測で大丈夫だろう、と、思い込んでしまった
彼女ならば、それも全て乗り越えてしまえるだろうと
強い『決意』を持つニンゲンである彼女ならば、問題はないだろうと
──誰にも言えない"違い"が苦しいことだと、一番解っていたのは、自分だというのに
「オイラも・・・俺も一緒だから
だから大丈夫だ、お前はひとりじゃない」
泣そうな笑みを溢すアリアルが、こくりと頷く。寂しそうな笑顔は、もうそこにはなかった
君の痛みを僕に分けて
(もう目を逸らさないと決めたから)