UnderTale

□その涙の意味も知らずに
1ページ/1ページ


ガリ、ガリと鋭い歯が肌を抉る
柔らかくも脆い肌に、その歯は意図も容易く食い込み、赤い命の色を垂れ流す
それを「痛い」と思わないようになったのは、その行為事態を何十、何百と繰り返し受け続けてきたせいだろうか
それでも生理的に涙を浮かべながら、自身の肩に噛みつく"彼"を、アリアルは横目で見た

赤く、狂気に滲む左目は、"それ"を味わっていためか、今はなりを潜めている
アリアルから流れる血を啜るサンズは、ハァと息を吐いた


(足りない・・・けど)


傷口から流れる血液に舌を這わせ、ベロリと舐めとる
ニンゲンを殺しはするものの、食べることは一度もしたことがない。何故なのか?それは、彼自身にもわからない

アンダインによって割られた頭蓋骨の傷は、その日からずっと、彼に痛みを与えてきた
加えて、地下の食料事情だ。贅沢は出来なくとも食べていけた8年前と今では、全く違う
とある"方法"により何とかしてはいるものの、いつ誰が塵になってもおかしくないのが現状だ
そんな環境下だ、かつて───と共にいた優しいスケルトンは、痛みと空腹で精神が崩壊しつつある
・・・───?───とは誰だっただろうか
サンズの思考にノイズが走り、青服を着た"誰か"が、自分の手を引いている映像が流れた。けれど、手を引いてくる者が誰なのか、何なのかまではわからない

頭の傷が、更に痛みを訴える。ズキリズキリと鈍く響く痛みが、つい先程まで見えていた、ノイズ混じりの景色をかき消した


「・・・サンズ、どう、したの・・・?」


肩から口を離したまま、ボーッとするサンズに、アリアルが小さく声をかける
怖いと思っているのなら、無理をしなければいいのに。心とは思ってることと、真逆の行動をする様が面白かったのか、クックッとサンズが笑った


「お前、どういう状況下かわかってんのか?」
「っ・・・わ、わかって、る」
「Huh?本当かねぇ・・・
 それにしちゃ随分と呑気なモンだ、今正に、食われそうになってるってのに、ナァ?」


ガリッと音を立てながら、細い肩に噛みつく。歯が肉を断つ感覚が伝わった

──このまま、喰らってしまおうか

サンズの中で、狂気が蠢く
無意識に、手に力が込もっていたのか、アリアルの肩の骨が、ミシと軋む音がした。痛がっているかのように肩が震える

柔らかい肌は、軽く力を込めてしまえば、脆い雪のように簡単に崩れるだろう
鋭く尖った指を突き立てれば、簡単にその肉を引き裂くだろう
だが、そこまで考えても、何故かそれをすることができない
出会った当初ならば、即座に殺せていたのに、どうしてか、共に過ごす時間が多くなってしまった


(Heh、俺もまだ完全なイカレ野郎じゃねえってことか?)


傑作だな。自嘲的な笑みを浮かべながら、噛み付いた傷口から流れた血を啜った
ニンゲンの血を飲む時点で狂っているという認識は、とうの昔になくなっている

ガリ、ガリッと目の前の柔肌に噛みつく
そうする度に、痛みを耐えるような呻き声が頭上から聞こえるが、聞こえなかったフリをして目を瞑った

唐突に、震える冷たい指先が、後頭部に触れる
それがアリアルのものであると気付くのに、そう時間はかからなかった
とうとう抵抗らしい抵抗をするつもりになったのだろうか。瞬時に身構えはしたものの、手を当てただけで、特に何もするつもりのないアリアルに、肩の力が抜けた


「何してんだ、お前」
「何って・・・」


手を当ててるだけ。状況そのままを説明され、若干呆れたサンズは顔を上げた
常に閉じた目と、いつも不安げな表情を浮かべている顔。だが、今はより一層悲し気に見える
痛みに辛い表情をするのならまだしも、何故悲しそうな顔になるのか、サンズには皆目検討がつかない

恐ろしいのだろう、辛いのだろう、苦しいのだろう
なのに何故、そんな哀れむような顔をする──


「サンズ、泣かないで・・・?」
「っ!」


アリアルの手が、サンズの顔に当てられる
──涙など流した記憶はない。そう言い返そうと思った
けれど、顔に触れたアリアルの手が、雫を拭うかのような仕草をして、ようやく自分が泣いているのだと気付いた
血のように赤い涙が流れる顔に触れながら、アリアルが悲し気に微笑む
それにまた、顔もわからない"誰か"が重なったような気がして、頭とソウルがズキリと傷んだ


「大丈夫だよ、サンズ」
──『大丈夫だよ!サンズ!!』

(───)


走るノイズに、鈍い痛みを訴えるソウル。大切なものが抜け落ちたような感覚に、ただただ涙が流れ落ちた



その涙の意味も知らずに
(何を忘れたのかも思い出せずに)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ