UnderTale

□誰かの願いが叶うとき
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パリィンと、何かが割れる音がした。それと同時に、地下世界全体を覆っていた"何か"もなくなり、心持ち身体が軽くなる


──『結界が、破られた』──


明確に宣言された訳ではないというのに、かれら(モンスター達)は、本能的に、それを理解した
─誰かが、小さな歓喜の声を上げる
それは徐々に伝染していき、やがては地下世界全体のモンスター達が、大きな歓声を上げた


「・・・アンダイン、あの子、まさか・・・」
「アルフィー、何も・・・何も、言うな」
「・・・」


自分達から離れた位置にいるというのに、アルフィーとアンダインの会話が、サンズにはよく聞こえた

必死に、絞り出すかのようなか細い声。嗚咽を洩らすまいと、アンダインは口許を噛み締める
あれほど憎んでいたニンゲン、それでも自分と友達になりたいと言ったニンゲン
──初めて心を許せた、最初で最後のニンゲンの友達
王国騎士団長としては、喜ばしい事態だというのに、それを素直に喜べないのは、ニンゲン・・・アリアルのことを、『友』として迎え入れていたから
迎え入れるべきではなかったというのに。迎え入れてなければ、こんなにも心苦しくなることはなかったというのに

沸き上がる歓声に比例して、アンダインの心に、暗い感情が重くのし掛かる
耐えきれたくなった彼女は、足早にその場を去っていった。罪の意識と、哀しみから逃れるかのように


「お、おぉ!?何だかよくわからないが、皆嬉しそうだな!サンズ!!」
「・・・あぁ、そうだな」
「めでたそうな雰囲気だし
 アリアルが帰ってきたら、俺様達の家でパーティーでもするか!」

「・・・・・」

「・・・・?サンズ?」


反応のないサンズに、疑問に思ったパピルスが振り返る
だがその先に、彼の兄弟の姿は、何処にもなかった









──────










黒地のパーカーに、黒地のズボン
いつもはピンクのスリッパを履いているのに、今は、黒地のスニーカーを履いている
『最後の回廊』と呼ばれる部屋で、右手に金鳳花(キンポウゲ)の花束を携え、サンズは立っていた

普段は、鳥の囀りしか聞こえない静かな部屋も、今日ばかりは、モンスターの大きな歓声が、遠巻きに聞こえている

長い間、地下に閉じ込められていたモンスター達は、その殆どが地上に出ることを諦めていた
そんな未来が来ることは、決してあり得ないのだ、と
だが、諦めていた夢が、長いこと秘めていた悲願が、今日という日に叶えられた
それは、彼らにとって、確かな『HAPPY END』なのだ

──だというのに


「Heh・・・どうしちまったんだろうなぁ・・・」


さっぱりわからねぇぜ。肩を竦めながら、誰に言うわけでもない言葉を、誰もいない空間で溢す

右手に持った花束を、廊下の真ん中・・・アリアルとサンズが、最期に言葉を交わした場所に置く
サンズがふと、ポケットに仕舞っていた携帯を取り出し『アリアル』と表示される番号を選択して、電話をかけた

──Prrr
──Prrr
──Prrr


「・・・はは・・・繋がるわけ・・・ないよな」


何度も何度も、呼び出し音が繰り返される。いつまでも止らないコール音が、虚しく響いた
逆光に照らされるサンズの表情は、暗い。真っ黒な眼窩から、音も立てずに透明な雫が流れ落ちていく

──サンズの脳裏には、つい数時間前の会話が浮かんでいた


『ついにここまで来たか、アリアル』
『・・・』
『ここを進めば、王に会うことができる
 そこで、王とお前が、この世界の運命を決する』


サンズと対峙するアリアル。その手にあるのは、ナイフ等ではなく一本の棒切れだ


『・・・お前さんは、誰も手にかけることはしなかったな
 だからと言って、その心の全てが真っ白だなんて言うつもりはない
 でも、お前さんの心はいつも暖かかった。ここに来るまで、正しい行いを貫いて、決して諦めなかった』

『アリアル、お前が手にいれたのは【Love】だ
 他者を傷付けない、本物の愛を手にいれたんだよ』
『・・・トリエルと・・・ママと約束したからね』


ここにきて、ようやくアリアルが笑みを浮かべた。それはとても穏やかで、柔らかな笑みだった


『この先に、アズゴア王がいる
 オイラは、お前さんがどんな選択をしても、それを受け入れるつもりだ
 ──たとえそれが、王を殺してしまうことであっても』
『・・・サンズ』
『モンスターとニンゲンの争いに、お前さんは無関係だ。巻き込んで、命を狙われて、辛い想いもしてきて
 それで王を憎んでも、仕方がないことだろうさ』


hehと笑いながら、サンズは肩を竦めた。その仕草は、まるで何かを諦めているかのようにも見えて──
気付けばサンズは、アリアルに抱きつかれていた


『っとと、おいおい、オイラの体力はかなり少ないんだ
 いきなりやられると、驚いて"ボーン"と逝っちまうぜ、アリアル』
『・・・ふふっ、サンズのジョークは相変わらずだね』


背中に回された小さな手が、青いパーカーをキュッと掴む。抱きつかれるままにしていたサンズは、少しばかり戸惑いながらも、ゆっくりとアリアルの背中に腕を回した
それは、ほんの数秒の間にも、数十分という長い時間にも思えて──


『サンズ、私からサンズへ渡したいものがあるの』


抱き付いていたアリアルの身体が離れる
何を渡すつもりなのだろう、と、見守るサンズの前で、アリアルは自身のソウルを取り出した、そして
取り出されたソウルが、おもむろに二つに分離する


『っ!?お前、それっ!』
『・・・へへっ、私ね、ずっと"これ"を練習してたんだよ』


──Soul Divide──
古くから、モンスター達の間に伝わる、他者へのソウルの譲渡方法
自身のソウルを分離させることにより、ソウルに秘められる魔力や力の一部を、相手に渡すことができる
だがそれは、ソウルの弱いモンスターには、到底不可能な手段だった


『『としょんか』でね、たまたま見つけたの』


自身のソウルから分離させた、一回り小さく、色の薄い赤のソウル
元のソウルは傷1つなく、色褪せることもなく、分離させたことなど大したことでもないというように、全く変化はなかった
自身のソウルを胸に仕舞ったアリアルは、ふわふわと浮かぶソウルの欠片を、サンズへと差し出す


『きっと私、ここへ戻ってこれない
 サンズには沢山助けてもらったのに、何も残せないなんて嫌だから
 だから、ね、欠片だけど、私のソウルを受け取って欲しいの
 ──私のこと、忘れないで欲しいの』


薄く開かれたトパーズの瞳が、窓から差し込む光に反射して、きらきらと輝く。瞳の奥で、決意の輝きが煌めいていた

サンズは、そのソウルの欠片を受けとるべきか迷った
彼がアリアルを手助けしていたのは、監視の意味も込めていたからだ。だから、感謝される覚えはない


『サンズ、お願い』


だというのに、このニンゲンは、サンズへソウルを差し出してくる
──たとえそれが、欠片であったとしても
命の源と同等の「soul」を


『Ah・・・わかったわかった、降参だ
 お前さんのソウル、受けとるよ』


じっと見つめてくる、トパーズの瞳。強い決意を秘めた瞳は、少し寂しそうに揺れていた
まるで、懇願するかのように見つめてくる瞳に、早々にサンズの心が折れた
そもそも、ソウルを分離させるというのは、当人のソウルに大きな負担を課すのだ。平然とした表情を保っているが、身体には相当な痛みが走ってるはず
──命と同等のソウルを痛めてまで、贈ろうとするなんて


(本当に、バカだよお前さんは)

(こんなモンスターに、ソウルを分けるなんて、な)


フワリと、小さな薄紅のソウルが、サンズの胸元まで移動する
サンズは、パーカーをすり抜けた赤いソウルが、自身のソウルにピタリとくっつくのを感じた。くすぐったいような、暖かいような不思議な感覚に、思わず身じろぎをする
ソウルが完全に混ざりあったのを確認して、サンズはアリアルと向き合う。少し顔色が白いアリアルは、満足そうに微笑んだ


『それじゃあ、行ってくる』
『Heh、お前さんなら大丈夫だ。他のやつらも、オイラも応援してるぜ』
『・・・うん、ありがとう』


そしてアリアルは、最後にもう一度抱きつくと、無防備なサンズの口に、自身の唇を触れさせた


『また会おうね、サンズ』


ただ一言、勝手に約束を取り付けて──
彼女は、行ってしまった


「・・・果たすつもりのない約束なら、取り付けるなよ
 なぁ・・・アリアル」


ひとつ、ふたつと
透明な雫が、スケルトンにはないはずの目から、溢れ落ちる
彼女の欠片と交わったソウルが、ズグリズグリと、痛みを訴えた


──アリアル、お前さんが贈ったソウルの欠片によって
  俺が何を授かったと思う?


ブゥンと、電子音を立てながら、サンズの前に、とある文字が浮かび上がった

『CONTINUE』or『RESET』

アリアルから分離したソウルは、サンズの生命力を大きくさせると共に、彼女にしか備わっていなかった、その"力"を彼に授けた
彼女にしか扱うことができなかった、この世界の【理】の力を──


「──まさか俺が・・・紛れもない俺自身が"これ"を望むなんて、な・・・」


サンズの手が『RESET』のボタンへと伸びる。彼の脳裏には、微笑んで去っていったアリアルの顔が浮かんでいた



誰かの願いが叶うとき
(傍にお前さんがいないのは)(俺にとっちゃ『BAD END』なんだぜ・・・?)

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