UnderTale

□束の間の夢を見る
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翌日
取り急ぎで、なんとか終わらせた書類の封を片手に持ちながら、サンズは足早にガスターの元へ向かっていた
ショートカットを使っても良いのだが、いかんせん、きちんと睡眠を取れていないせいか、魔力が満足に回復していなかった
加えてサンズは、前日の昼から何も口にしていなかった。そんな彼に、弟のパピルスはカンカンになっていたが、あまりにもサンズが忙しそうだったため、その怒りは爆発することなく治まったようだ

ひとまず、冷蔵庫に入れていたポテトチップスを食べて、軽くエネルギーを補充したものの、ショートカットを使うには、現在の魔力量では心許ない
となると、移動手段は一つ。ガスターのいる研究室を目指して、ひたすら歩くのみ


(あぁ、畜生)
「普段の運動不足が骨身に沁みる・・・」


スケルトンなだけに、ってか
どこからともなく聞こえる、ツクテーンというドラムの音。それは、ラボの廊下に、エコーしながら空しく響いた
得意気な顔をしているが、現在の時刻は約5:30。早朝ということもあってか、サンズの渾身のジョークを聞いている者は誰もいない


(アリーが聞いてたら笑ってるだろうな)


自身のジョークを聞いて、おかしそうに笑うアリーの姿が思い浮かぶ

あんなことが過去にありながらも、常に笑っているアリー。時々、寂しそうな顔で笑みを浮かべていたことに、本人は気付いていないだろう
それを思い出したサンズのソウルが、ツキと、針で刺されたかのような痛みを覚えた
元は彼女も、ただのニンゲンの子供。楽しいことを学ぶ機会は、多くあったはずだ。しかし、それは彼女の世界の同類によって潰されてしまった


(パピルスの小さいときと、違いすぎる)


本来、子供は無邪気な生き物だ。沢山のものに触れて、沢山のことを学んで、愛に包まれながら、愛されながら育まれる
モンスターの親は、ニンゲンよりも愛情深い。それは『Love』がとても大切なものであると解っているからだ。憎しみや悲しみだけでは、彼らの存在は揺らいでしまう
しかし、ニンゲンはどうだろうか
確かに、彼らにも愛はある、他者を包むような愛が
けれども、その愛をアリーは与えられずに育った。学べる多くも、学べずに育った


(・・・そうか、だからあいつ、時々本当に子供みたいに笑うのか)


学べなくとも、身体は成長する。幼少期の頃からの喜びを知らないまま、永い時を過ごしたであろうアリーは、達観したような所があるものの、その根本は、まだ幼いのだろう
──根本が幼いままであっても、大人のように振る舞わなくてはいけない。そんな環境下に、彼女は置かれていたのだ


(知らないままなら、何も思わなくて済んだんだが
 踏み込んじまったせいか、ほっとくなんて出来ないんだよな)


たまたま偶然知り合ったアリー、目を瞑って、知らないフリをしてしまえばそれまでだが、それができるほど、サンズは薄情ではない
アリーの事情を少なからず知ってしまった今となっては、彼女のことが気にかかって仕方がないのだ


(はぁ、まずは目先の問題を何とかしないと・・・いや、博士の研究を手伝いながら進めるしかないか)










─────────










ようやく辿り着いた。飯と睡眠はちゃんと取ろう

ガスターの待つ研究室の前で、疲れて若干乱れた息を整えながら、誰に言うでもなくサンズは誓った。ご飯と睡眠、これ大事
アルミ製の堅い扉をノックすると、程なくして中から「どうぞ」と、ガスターの声が聞こえた


「やぁ、遅かったね、今日は寝坊でもし」


ガスターの言葉が言い切る前に、彼のいた場所に青色の骨が突き刺さる
しかし、サンズの放った骨は、ガスターに突き刺さることなく、研究室の床に刺さった。ガスターはと言うと、いつの間にかサンズの横にいた
その額には冷や汗が浮かんでいる


「サンズ君、きみ今ちょっと本気で撃ってたよね」
「博士なら避けられると信じてたんで」
「いや今ちょっとかすったよ、服の端ちょっとかすってたよ、今日おニューの白衣なのに」
「ンなこと知りませんよ」


パチンとサンズが指を鳴らす、と、同時に、ソウルが青色に染まったのをガスターは感じた
瞬間、ガスターの体が、面白い程に床にめり込んだ


「@&&#\*くsujkあoせwふじ@##@!!!??」
「何ですって?顔が床にめり込んでるせいで聞こえませんよ、博士」


パシッパシッと、その手に持つ資料を片手に叩きつけながら、片目をシアンに輝かせて、サンズはガスターを見下ろした
ピクッと、時々体をピくつかせる様は、死にかけのGのようだ
・・・というのは、流石にガスターの威厳が崩れてしまうと思ったのか、口には出さなかった(しかし恐らく手遅れ)

程なくして、ガスターのソウルの色が戻ったのか、重力が異常にかかっていた体が、フッと軽くなる
下ろしたての白衣は、無惨にも既にくすんでいる。ガスターは、まるで生まれたての小鹿のように、ヨタヨタとおぼつかない様子で立ち上がった


「じ、重力操作も随分と上達したね、サンズ君」
「お陰様で、博士が発明した失敗作の暴走を止めるのに、かなり使いましたから」
「いやぁ・・・あの時は大変だったよ」
「一番大変だったのは俺なんですけど
 それよりこれ、昨日ノーフェイスから渡された書類です。短時間で終わらせるのに随分と骨が折れましたよ」
「の割りにはピンシャンしてるし、もっと書類の量上乗せしても・・・あ、ごめん、まじで、ほんとごめん調子乗った」


ボソッと呟くガスターの言葉に、サンズの反応は早かった。怒りマークを大量に額に浮かび上がらせながら、背後に浮かぶ大量の骨
その先端が、若干鋭利になっているのは気のせいではない

あ、これはマジもんでお怒りだ。生命の危機を悟ったガスターは、すかさず謝罪の言葉を口にした


「はぁ・・・ほら、博士、いつまでも遊んでいないで
 今日は研究の手伝いで来たんですよ」
「そうだったそうだった
 少し奥まったところでしているからね、着いてきてくれないかい」


受け取った書類を机に仕舞うと、部屋の、更に奥にある機密室へと進んだ

機密室は、ガスターとサンズしか入ることが許されていない、超シークレットルーム
アズゴアですら、ガスターの許可なくしてその部屋に入ることはできない
こう言ってしまうと、ガスターの権限が王よりも強いように思われがちなのだが、そうではない
機密室には、希少な研究資料や、貴重なサンプルなどが保管されている。素人であるアズゴアや、一般の研究員では、扱い方がわからないような機械も置いてあるのだ
そんなところに、アズゴアを招き入れてみろ。あの好奇心旺盛なモフモフ王が、下手に触って物を壊すのは目に見えている


「相変わらず厳重ですね」
「あぁ、まぁ、下手に入れられないからね・・・アズゴア王に試作品を壊されたのは、昨日のことのように思い出せる」
「あー、あの時の・・・それで王が出禁になったんでしたっけ
 試作品を何個か作っていたのが救いでした」
「本当に、あの時は肝が冷えたよ」


ガスターの目が一瞬遠くなる。アハーと、笑い声を上げる姿が若干痛々しい
アズゴアのせいで、危うく努力が水の泡になるところだったのだ、無理もないだろう


「さて、必要最低限の情報はこの研究メモに書いてあるから、目を通して欲しい」
「了解です、俺の作業スペースはいつものところで?」
「うん、特に触っていないから、そこを使ってくれていいよ」
「わかりました」


時々、床に落ちているビーカーや試験管を、器用にも重力操作で元の場所に戻しながら、自分用に設けられている作業スペースへと向かう
メモの情報を頭にインプットさせながら、必要そうな道具類は、これまた、器用にも重力操作を利用して棚から取り出していった


(Hmm・・・例の花の液体がいるのか)


サンズの主な作業は、例の金鳳花と、その他の金鳳花から液体を採取して、魔力と不純物に分離
その後、ニンゲンの決意を注入して反応に違いがないか、拒絶反応がないか観察することだ
言葉で言うのは簡単だが、そう簡単にはいかない

ニンゲンの決意の力は、非常に強い。魔力と似ているが、本質は全く違うもののため、注入する分量を間違えると、すぐに反発しあってしまう
加えて、花からの魔力の抽出だ。ソウルがないため、モンスターに比べれば、魔力の抽出は容易いが、その代わりに、その魔力は散布しやすい
そのため、魔力を溶かして保存のできる、特殊な液体と混ぜなくてはいけないのだ


(こりゃまた、随分と手間のかかる作業だな。経過の観察も含めると、一週間、といったところか)


ガスターの方は、例の金鳳花自体のことを調べているようだ。姿形は普通の金鳳花を大きくしたようなものだが、種族で言うと、全く違うものになっているらしい
花を調べているガスターの顔が、嬉々としたものになっている


(あー・・・、こりゃ、暫くは話しかけても耳に入らなさそうだ・・・)


サンズはメスを取り出すと、サンプルの採取のため、部屋のプランターに移された金鳳花の側に近寄る
改めて見ると、すぐ隣にある普通の金鳳花とは、全く異なるものだ。これで全く同じ生態であったと言われたら、逆に驚きものである
例の金鳳花の茎部分にメスを当てる、切りすぎないように気を付けながら、軽く傷を作って、溢れてきた液体を採取した
普通の金鳳花はサイズが小さいので、切り刻んだものを濾して液体を採取する。少し可哀想な気もするが、これも研究のためである


(さて・・・ここからが長いな)


いくつかの試験管に分けて、通常のものと亜種と、判別のつくようにラベルを貼ると、魔力分離の機械に差し込む
ここからの作業は、とても長いものになる。家で留守番をしているパピルスを想いながら、サンズは深くため息をついた



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