UnderTale

□あぁなんて綺麗な血の色
1ページ/1ページ


ぐちゃり、にちゃり

粘着質な音が響く。サンズの右手が動く度に、目の前の人物から、鮮やかな赤色が飛び出した

ぐちゃり、ぐちゃ
にちゃ

鋭くなった指先が、柔らかな肌をいとも容易く切り裂く
いつから己の指は、こんなにも鋭くなったのだろうか。そんな疑問は、とうの昔に捨て去った

ヒュー、ヒューと、風を切るような呼吸音が、サンズの頭蓋骨を刺激する。右腕を切断され、息も絶え絶えなアリアルの現状は、生きていることが奇跡だ
想像を絶する苦痛の中、死ぬこともなく生命活動を続けるということが、果たして"奇跡"という言葉で片付けてよいものなのか疑問だが・・・


「はっ・・・カハッ・・・っ」
「こうされてもまだ生きているか。随分としぶといな、ニンゲン」
「う"、ぁ"ああぁあ"っ!」


ドスッと鈍い音を立てながら、アリアルの右肩に骨が突き刺さる。サンズの右目が、まるで猛獣のように、ギラギラと赤く光っていた
右肩から飛び出る骨。その先端から、真っ赤な血が滴り、地面に赤い斑点を描く。降り積もった雪の上に、まるで花弁が散っているかのように


(何故俺は、こんなことをしているんだ)


アリアルの反応を楽しむかのようにいたぶる半面、僅かに残っているサンズの"自我"が、自問を繰り返す


「なぁ、ニンゲンはどこまでやったら死ぬかわかるか」
「そ・・・な"の、わかるわけ・・・・っあ"ぅ"」
「Heh、わかるわけねぇよな」

(何だ、何でだ
 どうして、ソウルが痛む)


左肩に指をめり込ませ、苦痛に歪むアリアルの顔に笑みが溢れた。だが、サンズのソウルは、それに反して痛みを訴える
その痛みは、苦しく、辛そうに呻くアリアルを見る度に響いた
──ニンゲンを殺すことに、戸惑いが生まれるようになったか・・・?


(今更そんなもの、あるわけがない)


──ニンゲンを殺すことを決めた時から、そんな戸惑いはなくなっていた

食料危機の今、食べるものになりふり構っている暇はない。殺しの快感を味わいたいがために殺すのではなく、生きるために殺すのだ
だが、殺しはするものの、サンズ自身は喰わないと決めていた
食べてはいけないと感じていた
だから今まで、ニンゲンを殺しはしたものの、その肉を、血を、食すことはしなかった
『食べてはいけない』という思いがあったのもあるが、それは自分ではなく、パピルスや、他のモンスター達が優先されるべきなのだと、思ったからでもある

今の地下世界では、倫理も道徳も無意味だ
喰うか、喰われるか。生きるか、死ぬか。二つに一つの選択が、常に突き付けられている


(そう、俺たちは常に『死』と隣り合わせだ)


何故そのような状況になったのか?それを考えようとすると、頭の傷が痛んで何も考えられなくなる
故に彼は、過去を考えるのはやめた
思考を放棄するのは危険だ、考えるのを止めるということは、進むことをやめるということが
だが、やめたことにより、サンズの心は酷く軽くなった。付きまとっていたしがらみから解放されたかのように
──それでも、ニンゲンを殺す度に、自身の背筋へ、罪悪感のようなものが這い回る感覚は、常にあった


(それすら今は慣れたものだ。・・・慣れた、ハズだ)


一度外れたタガを持ち直すのは困難だ。だからこそ、唯一狂っていなかった感情が、サンズを完全に狂わさずにいた
だというのに──


「・・・ぁ・・・っぐぅ"・・・か・・・」
「苦しいか、なぁ、苦しいだろうなぁ、こんなに怪我して」


か細い首に手を回し、気道を狭めた。柔らかな肌に指が食い込み、ブツリと皮膚が切れる。赤い血が滴り、サンズの両手を濡らす
その血の匂いの、なんと甘いことか
スケルトンに鼻はないというのに、滴る血の匂いが、サンズの嗅覚を刺激する
今まで感じることのなかった、否、色褪せたように感じることが出来なかったものが、鮮明に感じれるようになった

片手についた血を舐めとる。鉄臭いはずのそれは、まるで果実の果汁のように甘い
長年の渇きを潤すように、それは身体中に染み渡る。痛みを訴えていたソウルが、ドクリと脈打った


(あぁ、そうか
 こいつは・・・他のやつにも、パピルスにも
 喰わせたくないって、思ったんだ)


『愛欲と肉欲は紙一重である
愛を覚えたモンスターは、その相手を酷く愛し
骨の髄まで、肉のひと欠片、血の1滴まで、その全てを欲する──』

古い文献に残る一説が、頭に過る
果たしてそれが、彼らの言う『愛』であるのかなどというのは、今のサンズには解らない

ただ『それ』を誰にも渡したくない
『それ』を喰うのは己のみ
『それ』を殺すのは己のみ
其の血も、肉も
命すら全ては、己が見つけたもの──


「てめぇは俺のものだ」

「他の誰でもない、俺の」


左目が熱い。ニヤリと、口元に笑みが浮かぶのを感じた。見下ろすアリアルの顔が、怯えたような色を見せる
上げた右腕を勢い良く下ろした

刹那──骨が地面から飛び出る鈍い音と、肉を貫く鋭い音
アリアルの左腹を貫いた、無数の骨。それは、一輪の菊の花のように、真っ赤な血を滴らせながら咲き誇る
散る純血が、純白の雪を染め上げ、狂い咲いた菊の花は、サンズの目に美しく映った



あぁなんて綺麗な血の色
(それを"愛"と呼ぶのか彼には解らない)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ