UnderTale

□Bad timeを迎えて
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手に持つナイフが震える。小さな少女が、自身の頬を濡らす"それ"に手を当てた
ヌルリと生暖かさを持つその液体は、目の前で塵となって消えてしまった人物が、つい先ほどまで確かに"生きていた"ということを示していた

それを知覚した少女の中で、ピシリとナニカが崩れていく音がした


「あ、ハッ」

「はっ・・・はははっ」

「あはははははははハハハハハハハハはハハハハはははははッ」


肩を震わせた少女は、自分の中で崩れていくナニかを感じながら、笑う、嗤う
何がおかしいのかもわからない、何かにおかいしいと思ったわけでもない
それでも少女は笑った
生暖かい命の液体が頬を伝い、地面へと吸い込まれる。それはまるで、笑いながらも泣いているかのように
哭いているかのように

半狂乱になって笑う少女は、ガクリと膝から崩れ落ちた。その先にある黒い服に手を伸ばし、ちぎれるのでは思うほどに強く握り締め──


「あはは、はははははハハッ」

「ハハッ・・・」

「あ、はっ・・・・・・」

「はっ・・・は・・・・」

「・・・・っ」


狂ったように笑っていた少女の声は、いつしか小さな嗚咽へと変わる

持っていたナイフは、既に少女の手から離れて地面に転がっていた
握り締めた服に顔を埋めながら、少女は泣き叫ぶのを必死に抑えた
──自分に、泣く資格はない
──自分に、彼を悼む資格はない

──彼を殺してしまったのは、紛れもない少女自身なのだから──・・・・


「っ・・・さんず・・・さんず・・・、さ・・んず・・・」


親を無くした幼子のように、小さく震えながら、パーカーの持ち主であったスケルトンの名を口ずさむ
少女にとっては、家族のようで兄のようで友達のようで
とても、大切な存在だった
大切な存在だと思っていた
しかしそれを、少女を操る(───)は良しとしない
見えない糸に操られる様は、まさにMarionette
その糸に、少女の意思は関係ない
道行くモンスター達は、有無を言わさず少女(───)によって殺された。(───)にとってモンスターは、少女を強くするためのEXP(経験値)でしかない
持ちたくもないケツイをもたらされ、友に、家族になってくれた大切な存在を、自身の手で奪わされ
それでも抗うことを諦めなかった少女のケツイは、いとも簡単に上書きされる
そしてついに、最悪な一時(Bad time)が訪れてしまった───


『Heh・・・とうとうここまで来ちまったか』
『・・・・・・』
『何やら急いでるようだな』


優しい日差しの注がれる部屋
天使の回廊と見間違うほどに、その空間は穏やかだった。少女に話しかけるスケルトン──サンズの表情が、やけに穏やかだったからというのもあるだろう


『なぁ、1つだけ答えてくれ、アリアル』


少女の名を呼ぶサンズの表情は、おだやかなさざ波の立つ海のように凪いでいる

少女の服の『赤色』とは対照的な、青いパーカーを着ていたサンズ
だがその服装は、真っ黒なパーカーに変わっていた
サンズの左目が、シアンとシトリンの混ざったような、不思議な虹彩を放つ。敵意のちらつくその瞳を、少女は場違いだと解っていながら、美しいと感じた


『─────』


サンズが何かを口ずさむ
けれどその言葉は、少女の耳には届かない
少女の意思は(───)の手に渡り、彼女の意思とは裏腹に、手に持つ凶器をサンズに向けた
少女の目に、アリアルとしての意思はない。黒々とした目が、目の前にいるモンスター(サンズ)を殺せと言わんばかりに殺意を醸し出す
閉口したサンズは、意思の感じられないアリアルの目を見て、少しばかり目を閉じた


『・・・あぁ・・・そうかい・・・・・
 OK、よくわかったさ
 さぁ、Bad timeといこうじゃねぇか』






















少女が意思の主導権を取り戻したときには、全てが遅すぎた

アリアルの放つ一閃が、サンズの身体を切り裂く。体力がたった「1」しかないサンズにとって、その一撃だけでも致命傷だった
叩き込まれた一撃が、大きな傷を白骨の身体に刻み付ける。滲むように流れ出た血を見ながら、震える手でサンズが傷口を抑えた


『Ah・・・そうだよな、やっぱ、そうなるよなぁ・・・』


背にあった柱に身体を預けて、サンズの身体がずるずると崩れ落ちる。身体の自由が効くようになったものの、アリアルは、崩れ落ちるサンズを見つめることしかできなかった
咳き込むサンズの口から飛び出た血が、ビチャっと床に撒き散らされる。赤い花はいくつも床に咲き乱れ、彼の死期が近いことを知らせた


『グッ・・・heh・・・なんて、顔してんだ
 良かったじゃ、ねぇか・・・お前さんの、勝ちだ・・・ぜ?』


にやりと、いつものような不適な笑みを浮かべ、まるで友に話しかけるかのように、サンズはアリアルに語りかける
少女の表情は、差し込む光の逆光により、サンズの目には見えない
それでも何故か、サンズにはアリアルの表情が手に取るようにわかっていた
───否、最初から、彼にはわかっていた


『あぁ、そうさ・・・わかっていた、さ
 おまえさんが俺と・・・戦いたくないと思っていたってことは、な・・・』

『お前が、何もせずに・・・いたわけじゃないことも』

『わかっていた、さ・・・』


残り少ない命を燃やすかのように、サンズはゆっくりと言葉を紡いだ
それが少女に届いているかはわからないが、きっと今なら聞こえているだろうと、願いにも近い思いを抱きながら


『Heh・・・もう、次は来ないでほしい、なぁ・・・
 だがな、アリアル、もしまた、ここに・・・来ることが、あれ・・・ば・・・・・・』


サンズの目が、点滅をする。電池切れを起こしたロボットのように、チカチカと、空洞の奥の小さな目が揺れる


『その・・・時は・・・・・・───』


最後の最後は、言葉になってアリアルの耳に届くことはなく───
やがて──
サンズの目から、光が消えた


『ぁ・・・あ、はっ!』


心が千切れるような痛みを訴える。塵となった彼の身体から流れてくる『EXP』
自身の身体に流れ込んでくるものに、心に反して身体は悦びを訴える。違う、違う!私が欲しかったのは、こんなものじゃない!!

少女の瞳が、暗い絶望に沈む
電子音を立てながら、二つの選択肢が彼女の目の前に浮かんだ



Bad timeを迎えて
(絶望をした少女の指が『RESET』に触れる)(もう一度やり直すために)

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