短いお話T

□ドロップス
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アサクサ。かつて人間が生きてた時代では、そこは人で溢れていた
東京受胎後はそこは見るも無惨な姿へと変わってしまったが、現在はマネカタ達の手によって、徐々に復興しつつある


「んー・・・」


カラカラと、口のなかでドロップが音を奏でる
チャクラドロップは悪魔にとって気力回復アイテムのようなもの・・・
それ故人間が食べたところでその役目は果たされることはない(そもそも人間が食べるように考えられていない)
けれどもサヤはチャクラドロップが好きだった。昔食べた飴のような、ほの甘いその味がとても懐かしかったから
だから、こうして暇な時間ができると、ついついチャクラドロップに手を運んでしまう

そんなサヤの隣では、クーフーリンがゲイボルグの手入れをしていた
少し離れた所では、手頃な場所でオルトロスが日向ぼっこをし、ピクシーとカハクがその上でうたた寝をしている
旅の途中で寄ったアサクサだが、悪魔たちが蔓延っているなどとは思えないほどに穏やかな時間が流れていた
カラコロ、カラコロ。気づけばチャクラドロップはかなり小さくなっていた
懐の袋に手を伸ばす。旅をする上で困らないようにと大量に買い込んでいいたためか、まだまだドロップの数に余裕はあった


「また食べるんですか」
「美味しいんだもの。クーフーリンも食べる?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
「そう?残念・・・」


手入れを終えたクーフーリンはサヤの横に腰をおろす
出会った当初はこうして横にいるのを良しとせず、クーフーリンは常にサヤの後ろに控えていた
が「クーフーリンには隣にいて欲しいな・・・」という主の言葉についに観念した。随分と前のことだが、つい最近のことのように思い出せるのは、その主の言葉に強い衝撃を受けたからだろう


「クーフーリンは、甘いものは嫌い?」
「いえ、嫌いではありませんが、かといって好んで食べようとは思いません」


「そっかぁ」カラカラとまたチャクラドロップを口のなかで弄ぶ。何処の誰が製造しているのか不明だが、やはり滅ぶ以前の日本で食べた飴と同じ味だった

ふと、クーフーリンはサヤを横目で見た
ボーっと空を見上げるその片手には、どういう仕組みかわからない四次元袋(バーのママ製)が握られている
悪魔を倒したときに落ちる戦利品を入れている袋だが、以前袋の中を見たときには妙にチャクラドロップの数が多かったように記憶している
少女はそれを「飴と同じ味がする」と言って好んで食べていた
クーフーリンにとって、ドロップの味はさして気にするようなものではなかったが、そう言って顔を綻ばせたサヤを見てから、少しだけ気になるようになった

悪魔には、味覚があるようでない
美味い不味いの判断があるが、それが辛いのか甘いのか苦いのか、味の判別がつかないのだ
否、判別をつける必要がないのだ。彼らのエネルギー源は全てマガツヒで補われるためだ
チャクラドロップや魔石等も時々によって食すが、美味いか不味いかで聞かれれば"特に不味いものではない"と答えるだろう
そのため、悪魔は味に執着しない。けれど、自分はどうやらこの目の前の少女に感化されているようだ


「・・・やはり一つ頂きます」
「え?」
「ドロップです。思えば先ほどは魔力を出しすぎましたので」


スッと右手を差し出すクーフーリン。僅かに目を白黒させたサヤは、言葉の意味を理解すると、笑顔を浮かべてドロップをクーフーリンに手渡した
手の中のドロップをしげしげと見つめるクーフーリン。そんなクーフーリンを、何が嬉しいのかやはりニコニコとしながら見つめるサヤ

口にドロップを放り込み暫く、無言でドロップを口の中で転がす音だけが響いた


「どう?美味しい?」
「・・・美味い不味いで聞かれれば、美味しいですね」


そうぼやいたクーフーリンの顔はいつもと変わらないように見えて、僅かに戸惑ったような雰囲気だった
普段じっくり味わって食べることのない物、美味いかなんて考えないため、どう答えればいいかわからなくなるのだ


「ふふっ、そっかぁ
 じゃあ、クーフーリンの分のドロップも買わないとね」


カランカランと口の中でドロップの転がる音がする
片方の頬を膨らませながら、サヤはクーフーリンを見上げて笑った
顔を綻ばせて笑う主を見たクーフーリンは、まぶしい物を見たかのように目を細めた


「そうですね」


ドロップス
(舐めてるドロップがほんのり甘いと感じた)

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