短いお話T

□噛み合わない歯車
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──「なんだ鬼ごっこか?仕方ない、久しぶりにやるか」

その言葉を皮切りにどれほど走ったのだろう
息は途切れ途切れ。長時間走っている足は既に棒のよう
それでも足は止まらない、後ろから迫ってくる気配に恐怖する心は"ニゲロ"と頭で警報を鳴らす


「ハッ!ハッ!」


腕が、足が、身体が悲鳴を上げてる。逃げても逃げても逃げ切れない
いつだってそう、どこまで逃げても<彼>は確実に私を追い詰めて捕まえてくるのだから


──「見つけたぞ!」
──「うげ、見つかったっ」
──「ばーか、気配がダダ漏れなんだよお前は」
──「そうだぞサヤ、お前ももう少しは頑張ったらどうだ」
──「むぅ・・・柱間だけには言われたくない」
──「なっ!?」
──「おいおい止めろよ、まーた柱間が落ち込むぜ?こいつ落ち込むと面倒なんだからな」
──「・・・酷いぞ、マダラ・・・・」


ああこれは何程前の記憶だっただろう
互いに"うちは"と"千手"であると知らなかった子供。忍の存在を知ることなく森に住んでいた私
ただただ、お互いを友であると、唯一無二の親友であることを疑わずにいられた頃だ
彼らならば、平和な世が築けると夢見ていた
千手柱間と、うちはマダラ。敵同士であれど、彼らは・・・私たちはお互いに信頼し合っていた
・・・・信じていた・・・・


──「イズナ・・・・ッ!」


彼の・・・マダラの弟が、柱間の弟である扉間に殺されるまでは・・・・


──「マダラ!」
──「・・・・サヤ」
──「・・・マダラ?どうしたの?」
──「・・・・・・イズナが、死んだ・・・」
──「え・・・」
──「あいつに・・・柱間の弟に・・・っ」


酷く傷ついてたマダラを、放っておけるわけがなかった
ただの慰めにしかならない。いや、もしかしたら慰めにもならなかったかもしれない
それでも、マダラに求められれば、私は応えた。それこそ彼の気の済むまで
忍の頭領だと言っても、マダラとて人の子・・・辛く、寂しくないわけがない
それで彼の気が済むのであれば・・・マダラの心が休まるのであれば・・・そう思っていた
・・・今思えば、それが彼を狂わしていたのだろう


──「サヤ」
──「柱間・・・久しぶりね」
──「ああ・・・元気そうでなによりぞ」
──「私は平気・・・でも貴方は・・・・」
──「言うな・・・」
──「柱間っ!」
──「あれは俺の責任だ・・・・」
──「でも・・・でもこんなことがあっていいわけがない・・・・」
──「・・・・・・・」
──「・・・もう、戻れない・・・のかな・・・・」

──「・・・・・」


涙を流した私を、柱間は優しく抱きしめてくれた。まるで兄が妹にするように、優しく頭を撫でてくれた
柱間だって辛いだろうに、それを押しとどめて私の涙を拭ってくれた
私は、弱い。力のある忍とはかけ離れた存在。なんの力もない無力な私は泣くことしかできない
それでも柱間は、私がいてくれたことが唯一の救いだと言った。マダラにとっても、柱間にとっても

けど・・・・


──「マダラ、いらっしゃ・・・・マダラ?」
──「・・・・・・・」
──「マダラ・・・どう、したの?」
──「・・・・お前も、俺から離れるのか?」
──「マダラ?」
──「イズナや他の兄弟のように、俺を置いていくのか?俺よりも柱間の方がいいのか?
   いいや、いいや行かせないぞ。絶対に行かせない
   お前は俺の・・・唯一の支え。俺の大切な存在だ。なぁサヤ、あの時言っただろう?「ずっと傍にいる」と・・・裏切るのか?俺を?」
──「待って・・・マダラ落ち着いてっ!」
──「落ち着く?サヤはおかしなことを言うな、俺はいつだって冷静だ
   サヤ、サヤサヤサヤサヤサヤサヤ
   ずっと一緒なんだよな、ずっと傍にいるんだよな。ならば来い、うちはの集落へ。ここは危険すぎる、いつ千手の忍が来るかわからん
   大丈夫だ、ずっと俺がお前を守ってやるから」


その時に気づいてしまった。マダラの瞳の奥に隠れている、渦巻く狂気を
その時初めて、彼を怖いと思った。赤く染まる目に、狂ったように愛を囁く唇に
瞳が、声が、仕草が、表情が、なにもかもが恐ろしくなった

ああ、私達はいつから、道を踏み外していたのだろう

走っていた足がもつれた。ドシャと言う音と共に泥が撥ねる
身体のいたるところを擦り剥けながらも、彼から逃れるために、なんとか立ち上がろうと前を向く
けれど、そんな努力も虚しいもので、ゾッとするほど冷たいその手が、私の肩を掴んだ


「 ようやく、捕まえた 」



噛み合わない歯車
(ねぇ神様)(私は一体どうしたら良かったのでしょうか)

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