書庫


□愛情バロメーター
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「いだだぁ゛―…」


「痛くないよ、ガマン、ガマン」





*--*




恋人に掴まれた腕は透明なガラステーブルの上に押さえ付けられた。

ギリギリと不快音と共に現れた銀色の刃先が
僕の脈打つ腕に押し付けられた。


手慣れた手つきで動くその指から
カッターを伝わって刻まれたのは伊継(いづぎ)と言う二文字―それは紛れもなく僕の恋人の名前、目の前の口許を吊り上げて笑う男の名前であった。


テーブルに血が拡がった。
鮮やかな赤だった。

多分、動脈血。


痛いよ、痛いよ、伊継。




押さえ付けられた腕が
ピクピクと不定期に痙攣した。






「出来たよ、智晶(ちあき)」



刻まれた名前

一生消すことは出来ない



名前の合間から止めどなく流れる血。



膿んだら恨むからね。




「俺にも彫って」



僕の血がついたままのカッターが手渡された。




グチッ

加減が解らず思いっきり刺したら
噴水のように沸き上がり噴き上がる赤。


おっと、びっくり。
内心驚いたが

構わず僕の名前を深い所にゆっくり、慎重に彫り込んだ。






「意外に痛かったね。」




僕の名前が刻まれた腕を見ながら
彼は嬉しそうに呟いた。




テーブルには2人分の赤い湖。





これで一生一緒だね。




僕は彼に鼻先を擦り寄せ尋ねた。

「この血、どうする?」



「一緒に嘗めておこうか」







僕と彼の上がる愛のバロメーター。





付き合って1ヶ月



まだまだ上がるよ
愛のバロメーター。

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