お題

□こげくさい愛をあげる
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「うぁぁぁ!!また失敗したぁ!!」


本日3回目の失敗。

付き合うようになって初めてのバレンタイン。
ならば今年は気合いを入れて手作りで!と思い、作り始めたものの失敗ばかり。

しかもケーキとかは難しそうだからと、簡単そうなクッキーにしたというのに。
本番前に練習しといてよかったと思う他ない。


「なんで上手くいかないかなぁ…」


自分に呆れながら見つめるのはクッキー……とは程遠い物体。
バレンタインってことでチョコ味にしたから、見た目はまぁ…誤魔化せるかもしれない。
いや、無理か…。

そんな馬鹿なこと考えてないで早く作り直さないともう時間がない。
そうして材料に手を伸ばした所で、材料も足りないことに気付く。

本日何度目かわからないため息を吐きながら、買い物に行く準備をする。
遅い時間だけどスーパーもまだ開いているだろう。

そう思いながら玄関を開けた所で、思わぬ人物がいて目が合ったままお互いに時が止まってしまった。


「………」

「………」

「…こんばんは」

「あ、哲さん…!」

「こんな時間にどこか出掛けるの?」

「え、あの…ちょっと買い物に…」


じゃあ一緒に行くよ、と言う哲さんに曖昧に笑いながら部屋に戻る。


「買い物よかったの?」

「…大丈夫です、というか哲さんこそ突然どうしたんですか?」

「急になまえさんの顔が見たくなっちゃってさ、ははは」


照れた様に笑う哲さんにきゅんとして、その言葉にときめいていたためすっかり忘れていた。

キッチンの惨状を。


「なまえさん…なんか凄いことになってるけど…」

「あ、えへへ…」

「何か作ってたの?」

「ちょっと…クッキーを…」

「クッキー…?」


そんな不思議そうな顔をしてお皿の上を見られると何も言えなくなる。
なんとか違う方向に話を持って行かないと、と考えていたら。


「………!!」


哲さんはおもむろにクッキーを一つ取り、ぱくりと食べてしまった。


「あああ哲さん!それ失敗したやつだから…!」

「うん、ちょっと苦いけど、食べられるよ」

「でも食べない方がいいですよ!」


そしてまた一つ口に入れた哲さん。
どうしようどうしようと焦っていると、にっこり笑って頭に手を乗せられた。


「なまえさんが僕の為に作ってくれたんでしょ?」

「え…!」

「違ったかな?」

「違ってな…いや、あの…」

「愛情が強すぎて焦げちゃったんじゃない?」


そしてまたいつものように笑っている。

そんな哲さんに惚れ直したことは言うまでもない。

当日はちゃんとしたのを渡します!



こげくさい愛をあげる





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