お題

□2月14日、午後3時
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バレンタインの今日、出社してすぐに編集部の人達にチョコを配った。

ただ一人、私の想い人である佐々木編集長を除いては。

みんなに配るノリと勢いで渡してしまおうと思っていたのに。
なんでも外部での仕事があるらしく、そちらを済ませてから来るらしい。

出来れば手渡ししたかったけど、デスクに置いておこうか…いや、でもせっかくだから……。

そんなことを考えていたらいつの間にか午後になっていた。
やばい、全然仕事が進んでいない。
このままでは吉田さんにおこ、


「みょうじくん」

「……はい」

「頼んでた資料出来てる?」

「うーん、なんと言えばいいんでしょうか…えーと、つまりですね」

「出来てないんだろ?」

「……はい、すみません」

「まったく…そんなに気になるならさっさと渡して来い」


そう言いながら勝手に引き出しを開けられ、最後に残ったチョコを持たされた。
いろんな事に対してなんで知ってるの?と聞きたいところだが、あえて聞かないことにする。
なんかこわい。

というか編集長が出社してたことにも気付いていなかった…。
でも、せっかくきっかけをもらったんだから。


「へ、編集長!」

「ん?なんだ?」

「あの、えーと、その…」


別に告白をするわけじゃないのに。
ただチョコを渡すだけなのに。
なんでこんなに緊張するんだろう。

そんなことを考えながら、一度深呼吸。


「あの…!」

「あぁ、そうだみょうじ、これ」

「………へ?」


覚悟を決めて声を出したところで、逆に編集長から何かを差し出されて気が抜けてしまう。
それは今、私が編集長に渡そうとしていたものととてもよく似ていて。


「編集長、これは…?」

「最近は逆チョコ、とやらが流行ってるんだろ?」


確かにここ何年かは「逆チョコ」という言葉をよく聞く。
だけどまさか自分がもらえるなんて夢にも思わなかった。

しかも、好きな人から。


「ん?違ったか?」

「え、あ、ちち違ってないです!」


ほら、と渡されたチョコを受け取る。
どうしよう、嬉しい。
弛む顔を隠せず、にやけてしまう。


「私がチョコを渡すなんてみょうじにだけだぞ」

「あ、はい!……はい?」

「三倍返し、期待している」


いつの間にか、私の手からチョコをちゃっかり奪っておきながら。
お返しを期待するなんてひどいと思いつつも。
もうホワイトデーのことを考えている私がいた。



2月14日、午後3時





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