お題
□気づいて欲しいから、
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「……ん、」
目が覚めて辺りを見回すと、いつもの見慣れた編集部だった。
仕事中に居眠りをしてしまったことを深く反省しながら、席を立つ。
眠気覚ましに顔でも洗ってこようとトイレに行き、鏡の前で深いため息を吐いた。
「またやられた……」
きっと、犯人はあの人。
いや絶対あの人。
そう確信してその人物の元へと急ぐ。
途中すれ違った瓶子さんに「なんだ、可愛いな」と言われたけれど、曖昧に笑って誤魔化した。
運良くデスクで仕事をしていた彼女に声を掛ける。
「みょうじさん!」
「あら小杉くん、なぁに?」
「なぁに、じゃないですよ!これやったのみょうじさんですよね!?」
これ、と言うのは今自分の前髪を留めているピンのことだ。
今日のは花の飾りまで付いている。
「え?チガイマスヨ?」
「こんなことするのみょうじさんしかいません」
「…まぁ、いいじゃん」
似合ってるよ?と言われても全然嬉しくない。
ムッとしていると笑いながらピンの位置を直される。
「…あの、もう取りたいんですけど」
「ダメー、仕事中に居眠りしてる人には罰ゲームです」
「うぅ……」
実は仕事中に居眠りをするのはこれが初めてではない。
深夜に細かい資料を見ているといつの間にか意識が無くなっていることがある。
ただの言い訳だが、それも頻繁にではなくたまに、あくまでもたまにだ。
そして、眠ってしまった時とか、ぼーっとしている時には必ずと言っていいほどみょうじさんは何かしら仕掛けてくる。
今回はピンだったが、ゴムで結ばれていたこともあった。
一番酷かったのは両手の爪を真っ赤に塗られていた時だ。
……まぁ、そこまでされて起きない自分が悪いのだけど。
本当に毎回毎回よく……あれ?毎回?
「みょうじさん、毎回よく気が付きますよね」
「……ぇ?」
「いや、僕が寝てる時とか絶対何かしてくるじゃないですか」
「あ…ぅ、そうかな…?」
「すごいよく見てるなーと思って」
何で気が付くんですか?と言ったらなぜかみょうじさんは顔を真っ赤にして慌て出し、デスクに伏せてしまった。
「もう…許して…」
「え?」
「…気にしなくていいから」
気にはなるけど、そう言うなら戻ろう。
まだ仕事も残っている。
いい加減自分の前髪を留めたままのピンを返そうと思ったが、顔を上げる気配がない。
仕方がないので、みょうじさんの髪をそっと耳に掛ける。
少し肩を揺らしたから驚かせてしまったかもしれないが、そのまま耳の上くらいにピンを差し込んだ。
「みょうじさんの方が似合いますよ」
自分のデスクに戻ってからもう一度様子を見たら、みょうじさんはまだ伏せたままだった。
もうしばらくあのままだったら、今度は僕が何かしようと思いながら仕事を再開させた。
気づいて欲しいから、きみにイタズラ
ひよこ屋