お題

□怒らせてみたくて、
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ゆっくりと過ごす日曜の昼過ぎ。
昨日から泊まりに来ていたなまえはこちらに寄りかかりながら、本を読んでいる。


「コーヒー飲むか?」

「え?あ、私やります」

「いや、ついでだから」


じゃあお願いします、と言って座り直すのを見届けてからキッチンに向かった。

お湯が沸くまでの少しの時間、ふと考える。

自分よりもだいぶ年下で、まだ若いなまえはこんな休日の過ごし方で退屈ではないのだろうか。
年齢の割に大人びているというか、落ち着いている印象を持つ彼女だが、気を使わせているのではないだろうか。

そう考えていた所で、お湯が沸きコーヒーを入れる。
自分はブラック、なまえにはミルクと砂糖がたっぷりの甘いコーヒー。
カップを持って部屋に戻る。


「お待たせ」

「わーい、ありがとうございます」


両手でカップを持ち、息を吹き掛けて少し冷ましてから一口飲む。
美味しいです、と嬉しそうに笑い、またこちらに寄りかかる。

そういえば自分はなまえの笑顔しか見たことがない気がする。
いつも笑顔でいるのは誰にでも出来ることではないし、それが彼女の魅力ではある。
気を使った笑顔でないことはわかるが、もっと色々な表情が見たいと思うのは欲張りだろうか。

少し考え、自分のカップとなまえのカップをテーブルの上でそっと入れ替えてみた。
さすがに気付くだろうと思っていたが、余程本に熱中していたのかそのまま手に取り中身を口に含んだ。


「………っ!!?」


無理矢理飲み込んだ後にごほごほとむせる姿が、自分が仕組んだとはいえ可笑しくなってしまい、笑いを耐えながら背中を擦る。


「大丈夫か?」

「げほ……にが…、」

「すまない、ちょっとした出来心だ」

「え…?」

「いや、どうすれば怒るかと思ってな」

「……はい?」


涙目のまま、ますます不思議そうな顔をするなまえの髪を笑いながら撫でる。


「まぁ、怒らせるは冗談にしても」

「………」

「もっと色々な顔を見たいとは思っている」

「……え、」

「それに、もっと…我が儘を言ってくれて構わない」

「そんな…もう充分、こうやって一緒に過ごすのも我が儘みたいなものです、し…」


そんなものは我が儘のうちに入らないと言う気持ちを込めて、髪を撫でていた手を移動させ耳を軽く引っ張る。


「ぅ……じゃ、じゃあ、あの」

「うん?」

「く、口の中が苦いので、何か、甘いものを…」


恐る恐るといった風にこちらの様子を窺いながら言うなまえ。

お安い御用と言わんばかりに体を引き寄せ、口づけを送った。



怒らせてみたくて、きみにイタズラ





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