お題

□いたずらに泣いたふり
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「明日は早く帰れると思う」


じゃあどこかに食べに行こうか?と尋ねたら、「なまえのご飯が食べたい」なんて言うから。
柄にもなくはりきって料理を作り、雄二郎の部屋で帰りを待っていた。

そしてそのまま数時間。

雄二郎からは夕方に『ごめん、ちょっと遅くなる(>人<)』とメールが来たっきり音沙汰がない。
そんな顔文字なんか使ったって……ちょっと可愛いから許す。

早く帰るって言って帰って来たためしがないし、そういう仕事だってことは十分理解している。
じゃなきゃ雄二郎となんて付き合っていられない。
それでも…少しだけ、つまらないと思ってしまうのは内緒にしておきたい。


「お腹すいたな…」


ふと気付けば、もう夕飯どころか夜食になってしまいそうな時間になっていた。
先に食べるにしても微妙な時間。
仕方がないのでソファの上に体育座りをし、膝に顔を埋める。

そうしている内に玄関からガチャガチャバタバタと騒々しい音がしはじめた。


「なまえ!ごめん!」


慌てた様子で雄二郎が帰って来た。
こんなに待たされてこのまま許すのも悔しいので、体勢を変えずに怒ってる風をアピール。


「……なまえ?」


ゆっくり近づいて来て、隣に座る気配がする。


「…あの、なまえ?その…急ぎの仕事が入っちゃってさ…」


そのまま無言でいる私を不思議に思ったのか、そっと頭を撫でられた。


「なまえ…遅くなって悪かったよ、ごめん。だから……」


そして私をぎゅっと抱き締め、耳元で「泣くな」、と一言。

………え?雄二郎ってば私が泣いてると思ってるの?なんで?
私が混乱している間もずっと「好きだよ」とか「泣かないで」とか言い続けている。

なんだか必死な様子がだんだん可笑しくなってきて、こらえようと思うのにどうしても肩が震えてしまう。
すると雄二郎はさらにぎゅうぎゅうと抱き締める腕を強くして、声を掛け続ける。

ついに耐えられなくなり声を上げて笑い出してしまった。


「あはははは!!」


至近距離できょとんとした顔の雄二郎と目が合う。


「え……なまえ…?」

「……っ、はー…可笑しい」

「…なに?え?」

「ふふ、雄二郎があまりにも必死だから可笑しくなっちゃってさー」


笑って出た涙を拭い、まだ止まらない笑いを抑えながら言う。
すると雄二郎は急にムッとした顔になり。


「…な、なんだよ!泣いてねーじゃん!騙したのか!?」

「はぁ?今さらそんなことで泣くわけないじゃん!」

「なんだと!?」


売り言葉に買い言葉。

いつもの言い合いが始まってしまったが、すぐに二人同時にお腹が鳴って、顔を見合わせて吹き出す。


「いいよもう、飯食おうぜ」

「そうそう、誰かさんが早く帰って来るって言うから今日はご馳走だよー」

「……だから悪かったって」


またちょっとだけ声に元気がなくなってしまったので、背中に飛び付き「怒ってないよ」と言えば、とびきりの笑顔を見せてくれる。


この笑顔のためなら待つのも悪くないかな、と思ってしまう私は雄二郎に甘い。



いたずらに泣いたふり





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