お題

□何でもいいから知りたいの
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「え!瓶子さんてバツイチなんですか!!?」


思わず大きな声を出してしまったが、その言葉はまわりの誰かに拾われることはなく消えて行った。

不定期に行われる編集部内での飲み会。
いつもは何となく歳の近いメンバーで集まって飲んでいる。
でも今日は始まる前に吉田さんに頼み込んで、途中からでも瓶子さんの隣に座れるようにお願いしていた。

嫌な顔をされるかと思ったけど案外あっさり引き受けてくれて拍子抜け。
おもしろそうな顔をしていたように見えたのは、気のせいだと思いたいけれど。

そのおかげで今、私は瓶子さんの隣に座れている。

そしてどういう流れだったか忘れたが、瓶子さんがバツイチだと聞かされた。
当の本人は「知らなかったのか?」と涼しい顔で日本酒を飲んでいる。

二十代で既にそういう人も珍しくない今、そんなに気にすることではない。
ただ、こんなに素敵な人と結婚しておいて、どうして離れられたのかが不思議で仕方なかった。


「どうして別れちゃったんですか?」

「いろいろあったんだよ、若かったから」

「それからずっと一人ってことは、もう結婚しないんですか?」

「んー、どうかな」

「…彼女さん、とかは…?」

「気になる子ならいるが。どうしてそんなこと聞くんだ?」

「ぅ…え、いや…ちょっと…」


なんて答えたらいいかわからずに俯いてしまう。
そうか、瓶子さん気になる人がいるんだ。
それってきっと好きな人…だよね…。


「みょうじ、みょうじ?」

「………」

「聞こえてないのか?……俺はみょうじのこともっと知りたいんだけど」

「……え?今なにか言いました?」

「……いや?」


まぁ飲め、と言われて日本酒をすすめられる。
誤魔化された気もするけれど、とりあえず今はこの時間を楽しむことにした。




何でもいいから知りたいの




こうなったら、酔ったふりをして聞いてしてしまおう。


「ねぇ、瓶子さんの気になる人ってどんな人なんですか?」

「ん?知りたい?」

「ぜひ」

「みょうじなまえ」


今度の叫び声は部屋中の動きを止め、全員の視線を集めてしまうものだった。







ひよこ屋


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