お題

□惚れはじめは冷めにくい
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今日もまた、自分のデスクから編集長を見つめる。
ふふ、今日も素敵。

そうしていると、吉田さんが来て目の前に立った。


「なんですか、吉田さん。編集長が見えないのでどいて下さい」

「いや、みょうじくん。君が編集長を好きなのは知っている。だが今は仕事をしてくれ」

「してますよ?……ちょっと休憩してただけです」


呆れたようにため息を吐かれたが関係ない。


「……そんなに好きなの?」

「好きです」

「どこが?」

「格好いい所と厳しい所と格好いい所と実は優しい所と格好いい所と仕事が出来る所と格好い」

「わかったもういい」

「え、まだあるのに」

「君の嫌いな煙草吸うのに?」

「許せます」

「実はめちゃくちゃ怖がりだったら?」

「かわいいです」

「すごく怒られてもいいの?」

「大丈夫です」


ふーん、と呟いた吉田さんは自分の席に戻り、二つ折りにした紙を持ってきた。


「これ、編集長に渡してきて」

「なんで私が?」

「喋れるだろ」


吉田さんってばなんて優しいの!大喜びで編集長のもとへ向かう。
「ちゃんとお願いしますって言うんだぞ」と言われたのでちゃんと言った。

受け取った編集長は紙を開き……怪訝な顔でこちらを見る。


「なんだ、これは?」

「え?」

「"叱って下さい"か。お望みならいくらでも叱ってやろう」

はい……?

わけのわからないままお叱りを受ける。
まぁ内容はしっかり仕事をしろとか、もっと責任を持てとかそんなことだけれど。
いくら大好きな人の声でもやっぱりおもしろくないなー、なんて聞いていた。

すると突然「みょうじ」と呼ばれて意識を編集長に向けると、急に小声になって。


「あまり吉田と戯れるな、嫉妬する」


固まった私の頭を軽く叩かき、「よし、じゃあ頑張れ」と背中を押して送り出される。

何がなんだか追い付かない頭でフラフラとデスクに戻ると、吉田さんがニヤニヤしながら待ち構えていた。


「どうだった?」

「……ますます、好きになりました……」


その答えにまた盛大にため息を吐かれたけれど、反論することも出来そうにない。



惚れはじめは冷めにくい





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