お題

□はじまりは人違いから
1ページ/1ページ


今日は仕事帰りに学生時代の友達と女子会(という名の飲み会)がある。
早めに帰るはずがなんだかんだでギリギリになってしまい、慌てて会社を飛び出した。

その時。


「――さん!――さん!」


どこからか呼ばれている気がして見回してみる、と。
少し離れたところに停まっている車の中から手を振られた。

………知り合い、かな?と思い近づいて行く。
近くまで行って顔を確認したら、同じ社の人だとわかった。


「どこまで行くの?急いでるなら乗せて行こうか」


顔は見たことあるけど、話したことはない。
でも向こうから声を掛けてきたんだし、私のことを知っているんだろうか。

ほぼ知らない人、という迷いがあったが急いでいたので、ありがたく甘えることにした。


「え、いいんですか…?」


いいよ、と助手席を指したので急いで車に乗り込む。


「どこまで?」

「えっと、市ヶ谷に…」

「じゃあ駅まで乗せて行こう」


車を発進させながら会話をする。
この人名前なんだっけ、どこで私のことを知ったんだろうと考えていたら、突然。


「すまん」

「………え?」


運転席を見ると気まずそうに笑う姿。
なに?やっぱり降りてくれ?


「さっきまで話してた総務の子だと思って声を掛けたんだが…近くで見たら違った」

「……あ…そうですよね…!私も話したことないよなって不思議に思ってたんです!」

「ジャンプの佐々木です」

「マーガレットのみょうじです」


二人で笑い出す。

そうだ、ジャンプの編集長だ確か。
ちらっとしか見たことなかったからもっとコワイかと思ってたけど、すごく話しやすくて優しい人。

そんな感じで盛り上がっていたらいつの間にか目的地に着いていた。


「ありがとうございました!」

「いや、こちらこそ悪かったね」

「全然!実は時間ギリギリだったので本当に助かりました。楽しかったです!」


車の外と中、今度は目を合わせて二人でまた笑う。

少しの時間だったけど本当に楽しくて、別れるのがちょっとだけ残念に感じる。


「じゃあまた今度乗せてあげよう」

「!…いいんですか?」

「もちろん」


笑って「じゃあ」と、走りだす車に手を振って見送り、にやける顔を抑えて待ち合わせ場所へ急ぐ。

今度社内で見掛けたら声を掛けてみようと思いながら。



はじまりは人違いから




ひよこ屋


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ