お題
□あの、落とし物ですよ?
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道端で携帯を拾った。
交番に…と思ったけど、確か一番近くてもここからだと結構な距離がある。
ちょっと面倒だな…。
もしかしたら持ち主から電話があるかもしれない。そうすれば歩かなくてすむ。
そんな思いで近くのベンチで待つこと約一時間。
バカなこと考えてないでさっさと届ければよかった。
「どうしよう……」
今さら交番に行こうか、もう少し待とうか。
悩んでいたら、ふと、一人の男性が目に入った。
足元を左右に確認しながら、ゆっくりゆっくり歩いている。
もしかして、と思いその男性に近づいて声を掛ける。
「すみません」
「……?」
不思議そうにこちらを見る男性の前に携帯を差し出す。
「落とし物、ですか?」
驚いた顔をして男性は携帯を受け取った。
「あぁ!そう!君が拾ってくれたの?」
「はい、たまたまそこで…」
「どうしようかと思ってて、助かったよ。ありがとう」
その笑顔にちょっときゅんとしてしまう。
顔、赤くなってないかな…と気にしていると「お礼したいんだけど、今ちょっと時間がなくて」と鞄の中を探り出す。
「いいですいいです!偶然見つけただけですから!」
「俺の気がすまないの」
そうして鞄から手帳を取り出し、サラサラと何かを書いて手渡してきた。
「……びん、こ?」
「へいし、と言います」
「あぁ!ごめんなさい!」
クスクス笑う瓶子さんに謝っていると、頭にポンと手を乗せられた。
「お礼にケーキでもご馳走するから、そこに連絡して」
「え、いや、でも…」
「こんなおじさんとじゃ嫌かな」
やっぱり断ろうとすると、苦笑いしながらそんなことを言うから、思わず「そんなことないです!素敵です!」と叫んでしまった。
するとまたクスクスと笑われてしまう。
「ありがとう。じゃ、連絡待ってるから」
そう言って去って行く背中を見ながら、もしかして新手のナンパだったのでは…?と思う。
でも、あんなに素敵な人ならもう一度会ってもいいかななんて。
そうしているうちに、頭の中は瓶子さんのことでいっぱいになり、しばらくそこから動けなかった。
あの、落とし物ですよ?
ひよこ屋