お題

□雨がくれた運命
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「あーあ、降ってきちゃった…」


最近イライラすることが多いから憂さ晴らしに行った買い物の帰り道。
家まで持つかなぁと心配しながら歩いていた矢先、ポツポツと雨が振り出した。
大荷物だしどこかで雨宿り出来そうな所はないか…と見回したら、ちょうど良さそうな場所を見つけたので早足で向かう。

雨がだんだん強くなってくる様子をぼーっと眺めていたら、突然。


「隣、いいですか?」


と声を掛けられて、思わず肩がビクリと跳ねた。
それを誤魔化すように曖昧に笑いながら「あ、はい。どうぞ」と言いながら荷物をよける。

ちらりと隣を見るとさっきまでの私のように雨を見つめる男性。長めの髪の毛や服はしっとりと濡れてしまっていた。

お節介なのはわかっている。だけど…気になってしまったものは仕方がない。


「あの、」

「……え?」

「よかったらこれ…使って下さい」


まだ新しいので、と自分の持っていたタオルを差し出す。
男性はびっくりした顔をしていたけど「ありがとう」と受け取ってくれた。

そのときの笑顔が…なんかもう心臓に突き刺さるような感覚で。
まさかこんな所で、こんな出逢いがあるなんて思わなくて。
タオルを渡した後はただただ下を向いてじっとしていた。
だってこの人と逢うことなんてもうないから。これ以上変な気持ちにならないように。

何分くらいたっただろうか。今度は男性が話し掛けてきた。


「雨、上がってきましたね」

「……そうですね」


少しの時間、一緒に雨宿りをしただけ。雨が止んだらこの関係もおしまい。
でも、もう少しだけ。この雨が止むまでは……。


「そろそろ俺、行きます」


そんな小さな願いも叶わないのか、と落胆しながら「そうですか」と笑顔で答える。


「俺は吉田と言います。君は?」

「ぇ…と、みょうじです…けど?」


なんでいきなり自己紹介?と不思議に思っていたら、さっきまで笑顔だったのが急に真面目な顔になった。


「…次に、雨が降ったら、またここに来ます」

「……え、」

「タオル、返しに」

「ぁ…え?…あの、」


頭がついていかず返事も出来ずにいる私を置いて、吉田さんは小雨の中を走り出す。その後ろ姿を見つめていたら途中でくるりと振り返って、


「みょうじさん!」

「っ…はい!」

「明日、降水確率90%ですよ!」


そうして今度はニヤリと笑ってあっという間に走り去ってしまった。
残された私が願うのはただ一つ。


「明日、雨が降りますように」



雨がくれた運命





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