めいん(Ina)

□好きと嫌いしか知らない子
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小さな頃からクララは好き嫌いが激しかった。
食べ物も、色も、動物も、そして人も。

「好きか嫌いか、それだけで十分じゃない?」
「まあそうなんだけどな」
「…でも食べ物の好き嫌いはしなきゃ良かったって後悔してる」
「なんでだ?」
「牛乳嫌いだったから全部アンタにあげてたら身長はかなり差が開いた、肉嫌いだったから全部リオーネにあげてたら胸が悲惨になった…とかね」
「胸は遺伝的なものだし、身長だって俺は男だから仕方ないだろ」

そういうことにしとく、と言ってクララは俺の膝に頭を乗せた。いわゆる膝枕というやつだが、普通俺がしてもらう側じゃないか?

「俺の膝なんて痛いだけじゃないか?」
「いいのよ。高さがちょうどいいから重宝してる」
「…あっそ」

じっとクララの頭を見つめる。片手だけで掴めそうな小さな頭。その中にどれほどの情報・知識が詰め込まれているんだろうか。
肩なんかは小さくて肩幅も狭く、そこから伸びる腕は少女らしく肉は薄くはついているが、かなり細い方だと思えた。
ふと、クララが仰向けになってこちらを向いてきた。

「明日からプロミネンスと合同練習だね」
「そうだな」
「…なんであいつらなんかと…」

ギリ、と憎々しそうに端正な顔を歪めた。
ガイアよりももしかしたら敵視していた、ダイアモンドダストの永遠のライバル・プロミネンス。
ガイアがジェネシスに選ばれた今、その座を奪還するためにダイアモンドダストとプロミネンスは手を組んだ。プライドが人一倍高いガゼル様が飲んだのだ。よほどガイアがジェネシスに選ばれたのが認められなかったのだと容易に分かる。

「クララはプロミネンスと手を組むのは嫌か?」
「嫌に決まってるでしょ!あんなチームと手を組めるわけないわ」
「一人くらい、いいと思える奴は」
「いない」
「…即答かよ」

昔からそうだ。一番好き嫌いが激しかったのは食べ物ではない。
人間の好き嫌いだった。
俺はきっと『好き』に分類される人間だろう(まあ変な形だが付き合ってるし)
リオーネも『好き』なんだろう。ガゼル様もアイシーもアイキューもバレンもブロウもフロストもゴッカも、ダイアモンドダストのメンバーは全員『好き』に分類される。
しかしこれがプロミネンスやガイアになると全員『嫌い』に分類されてしまう。
これはマズイ。ひたすらにマズイ。
俺も正直プロミネンスのメンバーはみんな短気(というか怒りの沸点が低すぎる)というイメージがありあまり好きではないが、ガゼル様が「手を組む」といったからには手を組んでがんばりたいと思っている。
このままでは「クララのせいで協定は決裂」なんていう恐ろしい事態に発展してしまう恐れがある。

「そうだ、明日はバーラあたりに話しかけてみたらどうだ?あちらもDFだし、話し合うこともあるだろう」
「DFだったらゴッカがいるからいいもん」
「いや、二人じゃDFできないだろうが」
「二人で頑張るもん、プロミネンスの力なんていらない」

始まってしまった。恐れていたことが。
…クララが拗ねた。

「いやいやいや、折角マスターランクの2チームが手を組んだんだから協力しろよ」
「やだ。プロミネンスと手を組むくらいだったら死んでやる」
「死ぬなそんなことで!…じゃあクララはどうすればプロミネンスと手を組む気になってくれるんだ?」

嫌いな野菜が出てきて俺に押し付けようとするとき、いつも俺は「それを食べたらこれあげる」と、物で釣っていた。
この状態で使えるかどうから知らないが、知っている手段はすべてフルで使うべきだ。
クララは俺をじっと見つめたあと、嬉しそうな顔をしてこう言った。

「じゃあさ」
「ああ」
「練習がんばるかわりに毎朝キスしてよ」
「なんだそんなこ…ってえええぇぇええッ!?」
「ベルガがしてくれたら例えGKがプロミネンスの三つ編み君でも私がんばってゴール守るよ。だからいいでしょ?」

どうする、俺。
プロミネンスとダイアモンドダストの和平のため毎朝クララとキスするか、
両チームの亀裂をさらに深めてガイアの奴にジェネシスの称号をみすみす渡してしまうのか。
どうする、どうする俺!

「ね、ベルガ…」
「………よ」
「え?」
「み、みんなにバレないようにしろよ…?」

嬉しすぎて起き上がったクララに押し倒されてキスされるのは、これのコンマ三秒後の話。



好きと嫌いしか知らない子



END.


+++
はじめての方ははじめまして!くづみと申します。
今回の作品は、FOG企画様に提出させていただきました。
GK受け、ということでクラベルにしましたが、いかがでしたでしょうか?女の子攻めは正直珍しいと思うのですが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
ではここまで読んで下さった方、企画主催者様、本当にありがとうございました!
九摘こいろ

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