沖田
□背中から溺死
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これとこれと繋がってたり
首だけを晒されるってどんな気持ちなんだろう。
胴体から斬り離された瞬間の表情のまま、自分を処刑するように命じた人間の前に置かれるのか。何処の誰かも知らない奴等の前に屍顔を見せているのか。
既に死んだ身にしてみれば知ったことでは無いが。
「綺麗に遺してくれたんだな、お前」
だらり、首から上が垂れてさっきまで白かった髪が黒に戻り流れる。それを男が掬い上げては指からすり抜けていくのを、ただ、見世物みたいだと観ていた。
男は全てが終わるまで手出しも口出しもしなかった。短くなった薫の髪を執拗に指で絡める光景は、何とも言い難く、異様だった。
「首でも斬れば良かった?」
「新選組ならそれくらいしそうだからな」
「知ってたんだ」
「知っていただけさ」
笑顔を崩さない男が気持ち悪くて、言うように首でも斬り落としたくなった。
試しに刀を鳴らしてみても見向きもしないから、まだ渇かない血を放置して千鶴に目を向けた。
一見いつもの凛とした表情に見えたけれど、固く結ばれた唇が内情を表した。
「妹さん、だな?」
「あ…」
よっ、と声を出しながら死体を持ち上げる男にかけられ、情けなく出た千鶴の声が響いた。
治癒の力を無くした身体から止まることが出来なくなった赤黒い血が地面に吸われていく。
それに苛立ち同じ地に触れている両足で踏みにじった。鈍く砂利が擦れ、水音が混じったのがわかった。
「俺は君を責めるつもりは無いけど、潔く去る気も無いんだ」
息をしなくなって重くなったはずの身体を軽々と抱えたまま、千鶴に近づく。
千鶴の傍に行こうとすれば視線で制された。
「本当、そっくりだ」
譫言(うわごと)のように呟いて、千鶴の髪を軽く撫でた。「ああ、本当に」その後は僕には聞こえなかったけれど千鶴には聞こえていたようで。頭を深く、深く下げていた。
今、胴体と繋がっているこの首が厭らしいものに思えて仕方なかった。
刀を握る手に力が入る。
「沖田さん、」
呼ばれたそれにはじめは反応できなくて、何度目かでやっと返事ができた。
僕が斬ったのはきっと兄妹としての縁と終わるためにあった人生。薫自身。
それと、男の"何か"。
暗い黒い冷たい。ああ、やっと。また。また、僕が誰かを奪ったんだ。
支えを失った苗木のように風にも雨にも負けて。
根っこだけで立つことなんて僕にはできないから。
「沖田さん、沖田さん…」
「なぁに?」
「おきた、さん」
それしか言葉を知らない赤子みたいに掠れる声で紡ぐのは僕の名前。
何をやっても泣かせてしまうのなら、いっそその表情を永遠のものにしたい。
今、瞬間、君を首だけにすることは許されるかな。
「もう、朝か」
それはまるで、世間話でもするかの如く穏やかな口調だった。
渇いた血だけがこの世から除外させてくれた。
20100320
トイ
最近恥ずかしいな。