複数

□生き害
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僕はお前とは相容れられない関係だから、斬ることに対して戸惑いなんて持たないはずなのに。
たったひとりの女の子の存在がこんなにも僕を押さえ付けるだなんて思いたくもなかった。
歳に似合わぬ目つきなのはお互い様。何を経験してきたらこうなるのかは、多分僕等がよく理解している。消えてくれないあの存在がまた僕に牙を剥く。


「髪切ったんだね、南雲の鬼さん?」
「…お前もだろう」
「変わったのは見た目だけだと思う?」
「まさか」


赤い、液体。それが入った瓶を地面にたたき付けた。土が吸い込みじわりと浸蝕し始める。
お蔭様で。千鶴ちゃんまで巻き込んでここまで来て。お前はさぞかし愉快だったんだろうね。
沖田さん、小さな声で呟いた名前が自分のもので良かった。本来なら、頼るべき相手は僕なんかじゃ無いはずなのに、ごめんね。


「立派な羅刹になったよ。僕も、お前の妹も」


満足かい?細められた眼がその問いを肯定するには十分なものだった。くすくすと、耳に残る風音のよう。


「僕はこっち側の人間だから薫、お前のことは許せないんだと思う」
「…」
「だけどもしも、僕がそっちの人間で、千鶴ちゃんのことが許せなくなったら、どうだったんだろうね」
「人間…か、」
「環境って大事だよ。
でも、現実で僕はお前の敵だから。斬るよ」


ここで、断とう。
せめて兄として死んでいってほしい。この子の為に。白い鞘から抜かれた刀身が夜の風を切る。ひゅん、と渇いた音が静かに響いた。


「斬る、か」
「本当なら、僕は役不足なのにさ」
「馬鹿だな」
「お前のせいだろ」
「ただの馬鹿でよかったのに」


たった二十数年。二十もいってない薫。生きていた内は損の方が断然多かった。

どうやら終わらせるのが怖いのは僕だけじゃ無いらしい。







痛みばかりが僕等を笑う。



100209
濁声


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