□嬌声
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唇を紅で塗れば、そこには女が居た。
髪を高い位置で結い上げ留めた簪がしゃらんと鳴る。

鏡に映る自分は自分?


「その恰好にも慣れたもんだな」


うなじに手をかけてきたのを払い退ければからからと笑い男は俺の簪を抜き取った。
返せよ。そう言えば、女がそんな言葉遣いしてもいいのか?なんて返してきた。そんな台詞を返さなくてもいいんだよ。
腹の中で毒づいても
当の本人は知らぬ顔。
わざとらしい溜め息を吐き出した。


「お前に良く似た奴を見たよ」

「…そう」

「新選組なんかと一緒に居たんだが、どうだか」


兄弟か?なんて脳天気にも程がある質問。

笑ってかわしてみたけれどこの男には無駄なことだろう。

気味の悪い男だ。


「俺にそっちの気は無いんだが?」


簪の先が目の前にある。
男の顔も目の前にあった。

今の俺はオンナ。

張り付けた表情で睨めば、
参った参ったと茶化すように両手をあげた。


「そんな怒るなって」

「誰のせいだ?」

「さぁな」


髪に金の華が飾られる。
障子の隙間から光る埃が妙に幻想的に見えた。


俺にも感性が残っていたなんて、馬鹿みたいだ。


鏡に映る自分はあのオンナにそっくりだ。俺が似ているのかあっちが似ているのかは知りたくもない。
ああ、はやく会いたいな。

誰として?


「お前、幸せか?」


そんなの、今更知ったことじゃないか。


「ああ、とても。」


そればかりか今にも泣きそうなんだ。



声が出ない。

現実が遠い。



「なら、笑えよ、」



そんな、なまぐさい言葉。
今までだって俺は笑っていたはずなのに、







100202
濁声


同じキャラでの差が激しい



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