土方

□堕星
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今年の桜は芽吹くのが早そうだ。ふっくらとした蕾を見れば自然と頬も緩むものだった。
ここ数年「ああ。また春がきてしまったのか」と悲観的に見れたのにもかかわらず、だ。
千鶴が隣に居る。そんな現を得られたことが嬉しいのか淋しいのか。

少し季節外れの雛たちが親を求め鳴く声が響く。早い、これもまた早すぎる。

"何か"の兆しなのだろう。そうだ、と告げるかのように雛たちは永遠と高い音をあげる。


「もう雛がうまれたのですね」


陽が差す肌は透けるほどに白い。隣に腰掛けて巣を見る眼は親が子を慈しむかのように優しい…。
軽く眼にかかった髪をわけてやればにこりと笑う。
弱々しく、小さく笑った。


「早いですね」
「そうだな。今年は桜も芽吹くのが早そうだ」
「早く見たいです」
「ああ、見ような」


短い会話なのに妙に緊張していた。千鶴が発する一言一言を頭に刻み付けてた。

すっかり細くなった手を握ってやればやんわりと力が込められる。この手に何度救われたか覚えていない。「今日、は暖かいですね」こてんと寝転がり俺の膝に手を乗せた。指が絡まる。千鶴の長い黒髪が風に遊ばれている。はらはらと流れる先にもう片方の指を絡めた。擽ったそうに身をよじり、瞼を閉じた。
規則正しい息使いが聞こえていたのもつかの間、小さく小さくなっていくそれは、雛の声によって消えた。


ちづる、


まだ笑ってんのかよ。
馬鹿だな、眠る間くらい俺に気をつかわなくてもいいのにな。ほんと、馬鹿だ。馬鹿すぎて、泣けてくる。


「おやすみ」


早過ぎた春に俺も笑った。










俺が夜に眠ったら、お前は朝に起こしてくれるか?






100126

呼吸様に参加させていただきました。
ありがとうございました!




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