藤堂

□古の水魚
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清んだ水と生命をイコールで結ぶことができないと知ったのは最近になってからだった。



「いい天気だなー」


ギィイと錆びれた鉄が擦れる耳障りな音が響きが渡る黄昏時。こんな時間帯に言うには不似合いな言葉を吐き出した。
いい歳してブランコを独占していたりする。
あかい空とあおい空の狭間にいろんな色が層を重ねているのが綺麗だな、なんて柄にもなく見上げていた。



「平助くん」


手が増えた。小さくて白い見慣れた可愛い手。
誰だ、なんて考えてなくたってわかる。千鶴だ。
地面に髪が着くのも気にせずに、だらん、とのけ反ってみた。
逆さまになった千鶴はオレを覗き込んでいた。


「部活サボってブランコ遊び?」
「嫌味な言い方すんなよ」
「気のせいだよ」


隣にあったブランコに腰掛ける。出過ぎだろうと露出された太股を憐れに思う。


ぴゅうぴゅう

風は止む気配がない。
早く春来ねえかな、春。


「綺麗すぎる水に生き物は住めないんだってさ」


何かの授業での教師の雑学だ。千鶴はオレが寝てたって思って話してくれてるんだろうな。起きてたけど。
生命の源は水だっていってたりそうじゃなかったり。知識があるってのも困る。

そうなんだ。とりあえずの相槌に千鶴は続ける。

公園には小学生がわいわい遊んでいる。あの歳なのに自分のポジションとか一番平和で過ごせるとこを的確に判断しているんだよな。
すげぇよ、ほんと。


「すげぇよな」
「うん」


通じているのかどうなのか。空間だけが共鳴してる。
魚は質を選ぶ。それなのに綺麗すぎると溺れんだな。贅沢なのか謙虚なのか知るかって感じだけどさ。
魚なのに溺れてしまうなんてどんな気分なのだろうか。消えたくなるかな?

かぷかぷと、沈んでいく。

なあ、知ってるか?
生き物は痛くて涙を流すんだけど人間だけは違うってこと。心で泣くことができる生き物は人間だけって。

傲慢だよな。

まだ足りないっていいたげでムカつく。

濃い影が伸びていたのに、いつの間にか薄くなってしまっていた。空には白い月が出ていた。息も白い。


「汚い世界でしか見えないものもあるんだよな」


あんなに大きく感じていたブランコだって今となっては狭苦しいサイズ違い。
知らなくてもいいものばかりが入ってきたり。
知識を活かすの為に今度は知恵が要ったりその逆だったり。
そんなことめんどくさいだけだろ。なのに?なんで?なんで?そう問うたところでなんだというんだ。
悩める思春期ってやつ?
ははっ、似合わねえって。



「でも、生きてるんだよ」


ああ、そうだな。
それは錆びれた音に消えていった。







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濁声

思春期設定は難しい。


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