沖田

□初めて望んだもの
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微妙に露骨表現有り
ばっちこいな方だけスクロール




































気持ちは戸惑いながらも身体は正直なものだ。本能は血を、千鶴の血を求めて止まない。そして千鶴は僕の血を飲む。いつも泣きそうな顔をしながら絶え間無く舌を動かす。

「鬼っていうのは、もっと醜い姿なのかと思ってたんだ」

それこそお伽話にあるような傲慢で恐ろしい外見で感情なんてそんなに無い、人間と言うよりも獣に近いものだと思っていた。
餓えた人間は皮膚を引き裂き、爪や手、身の一部をだんだんと喰っていき最後に残ったものは首から上だけ。他人に奪われる前に自らを喰い尽くしていった。痛い、という感覚は麻痺。人間らしさなんてその時には消えてしまっているだろう。
ならば鬼は?羅刹は?それらは血を求めるだけなのか?本当に、それだけを?羅刹となり狂った隊士を見る度に思っていたことだ。もしかしたら人間を喰い契るのかもしれない、と。皮も骨も何も残さず己を満たすのではないか、と。
自分がなって分かった。鬼を、千鶴ちゃんを見てわかった。鬼は人間よりも欲深く無い。感情は人間と同じ。そして身体の造りは人間よりも丈夫だと。

そして、何より美しい。

白に染まる髪を撫でる。千鶴ちゃんは僕の腕の中でひたすら震えていた。


「どうしたの…?」


月明かりに照らされた髪は僅かに緋を帯びていた。一本、一本と指の間を流れていく。暖かくなった唇にその指を添わせゆっくりと触れ撫でる。


「ごめんね、僕の血で」


僕に君の渇きは潤せない。けれど君が求めてくれるのなら僕はそれに応えたい。


「沖田さん…わたし、は…、」
「落ちていて、ねえ?」
「、わたし…っ」
「千鶴ちゃん、」
「わたし、は……!」
「千鶴」


頬を両の手で挟み眼を合わせる。泣いているのに表情はとても美しい。

「落ちていて。僕のこと、分かるでしょう?」

小さく頷き溜まった涙が一粒零れた。ほら、ゆっくりと深呼吸して?息使いに同調して髪が黒く戻っていき、夜の闇に溶けていく。


「醜い、わたしは…醜い、です…」
「綺麗だよ」
「、だって…!」
「僕は嘘が嫌いなんだ。つかれるのも、つくのも」


分かるよ。僕も初めて羅刹となったときには自分にとても悲しくて情けなくなったから。今でもそう思う時だってある。血を貪るだけの、あの恐ろしい鬼なのだと。

でもね、千鶴ちゃん

「僕が君を醜いなんて言った?」
「言って…ないです」
「それが全てだよ」
「、?」
「だから、醜くなんて無いんだ」

無理矢理こじつけたような理屈。まるで子供みたいだ。ああ、そうか。

(僕らは鬼とか人間である以前に、子供じゃないか)


「、あはははははっ!」
「お、沖田さん…?」
「ごめん、なんか、可笑しくてさ」
「何がですか?」
「君らしくないよ。そんな真面目な顔しちゃってさ」

挟んだ頬を引っ張って表情を変えてみれば間の抜けた、失礼だけどいつもの千鶴ちゃんで。さっきまでは大人びた顔していたのになとまた笑ってしまった。

「もう…、ふふっ」
「やっと笑ってくれたね」

例え誰かが君の皮膚を引き裂き、血を啜ろうとするものならば喜んで僕が喰われよう。だから君は、僕の為にだけ笑っていて。


「綺麗だよ、本当に」





(それが君で良かった)









091225
もしもし

うーん、暗め?


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