斎藤

□兎
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今朝は特に冷え込んでいた。隣にあるはずの体温に寄り添おうとしたがあったのは冷えた布団だけだった。

「千鶴…?」

重かった瞼も開ききってしまった。先程まで居たはずの千鶴が居ない。既に起きてしまっているのだろうと寂しく一人で朝を迎えた。

何処に居るのかと探せばベランダに人影。見れば求めていた人物で足も自然と向かって進む。


「はじめさん雪!雪ですよ!」

どおりで寒いはずだと近付き視界に入ったのは白銀の世界とまではいかない程度の白い世界。僅かに積もっている雪をかき集めている千鶴はそれこそ庭を駆け回る犬の様。一方、それを室内から覗く俺はこたつで丸くなる猫か。一歩踏み出してみればじん…と爪先からつむじまで一気に染み入ってきた寒さに身震いをした。

「雪兎です」

ちょこんと千鶴の手に乗っかった小さな雪兎。まだ足りませんね、と残念そうに冊子に乗せて部屋へと戻ってきた。冷えてしまっている手を温めてやりながら兎だけ残し窓を閉めた。


街は赤と緑で埋めつくされている。賑やかな音楽が絶え間無く流れ色とりどりの豆電球が器用に飾り立てられている。クリスマス、聖夜なんて持て囃されてはいるが日本には関係無いではないかと乗り気にはなれない。キリストも居ないこの国で宗教以外に盛り上がる必要があるのか。
いや、楽しむなと言っている訳では無いのだが……。

「(千鶴が楽しそうだから良いのだがな)」

結局はそこに結び付く。何かしたいか?と以前聞いた。何処に行きたいあれが欲しいなどと千鶴に付き合う予定だった。たまには我が儘を言ってくれるのではないかと。だが、「お家で過ごしましょう。」と言われ朝から繰り返し放送されている特集をぼぅっと見ながらゆっくりとふたりで時間を過ごしていた。


「もう夜か」

辺りは真っ暗。光る粒たちが下にも上にもある。焼きたての甘いスポンジの匂いが鼻を霞める。それに期待しながら手の感覚が鈍る中作っているのは雪兎。今朝千鶴が作ったのとは大きさがまるで違う。親子に見えるなと隣に並べた。

「可愛いですね」

カーテン全開の窓からは兎が二羽夜空を仰いでいる。

「溶けたら見てくれ」
「え?」
「きっと明日中には溶けているはずだ」
「わかりました…」

暖かい部屋には甘い香り。賑やかな音楽も洒落た言葉もプレゼントも無かったが二人してその話については何も言わなかった。



「うさぎ…」

次の朝。溶けてるかな、と千鶴は裸足のままベランダへと出た。昨夜はじめが作った雪兎から見えた小さな光。固くなった兎の中から取り出して雪を掃い手の熱で温めながらそれを見ると寄り添う兎が彫られた小さな銀細工の置物だった。

ぎゅっと可愛いプレゼントを手に大切に握り、千鶴はまだはじめが眠る布団に潜り込んだ。


うさぎはふたり、丸まり抱き合うように眠っていた。





091224

MerryX'mas
雪兎といえば公式ですよね



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