複数

□柔らかな強がり
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「なんか振り返ってみたらあっという間だったな〜」

心落ち着く我が家のはずなのにイライラするのは今言葉を発した奴のせいだ。
何故か俺の隣に座り寒そうな素足を宙ぶらりんに外気へ晒している。見ているこっちの身にもなれ。ていうか当然の如く座るな阿呆。

「僕も歳をとったってことかな」
「そのまま老いて死ね」
「天寿全うしてみせる」
「明日事故れ今すぐ事故れ」
「明日は無理だよ」

グラスに並々注がれたビールを差し出されて顔をしかめる。一気に空になった沖田のグラスに妙な対抗心を駆り立たされた気がして無理矢理喉へと流し込んだ。

「いい飲みっぷりですね?お兄サン」
「うるさい」
「美味しかった?」
「苦い」
「あははっそりゃ辛口だもの」

ピリピリとする舌を氷で休めてやりながら再び飲みはじめた沖田に溜め息を零した。

「今日は大人しいじゃないか」
「そりゃあ僕だって人の子だからね」
「そうだったのか」
「ちょっと…?」
「どうかしたのか」
「…そっちこそ。らしくないね」
「お互い様だろう」

寒い日に限って空は明るい。冬の夜空は格別だと誰かが教えてくれたな、なんて今になって思い出す。今日は互いに嫌味も少なく静かだ。感じる雰囲気も静かで穏やかなのか、ただの空白なのか。まぁどちらでも良いことだ。


「不安なのかもしれない」


パチパチと音を立てて弾けて消えた泡。それと共に聞こえた声は面白くない声音だった。

「なら止めろ」
「途中で止めるだなんて絶対に嫌だよ」
「だったらそんなことを言うな。お前は中途半端な気持ちで千鶴を幸せにするって誓うのかよ」

睨みつけて目が合うなんて人生初の経験かもしれない。こんなに他人にお節介になるのも、初めてだ。そしてこれが最初で最後。ありがたく思えよ馬鹿沖田。

「自分はまだガキだからこうして誰かに宣言しとかないとって思ったんだ」

空になった缶を握り潰して隣に立てた。それは酷く不格好なくせにしっかりと立っていて。ふたりと空き缶が並んで夜風に吹かれる。妙な光景に思えるのは俺だけか。

「で、俺なのか」
「うん」
「聞いてやるよ」
「優しいね」
「きもいうざい。さっさと言え」

カラン、空き缶が倒れた。

「僕は自分の一生で必ず彼女を幸せにするよ」
「確かに、聞いたからな」
「言った」
「もしも泣かせてみろ。ただじゃおかないからな」
「わかった」
「勘違いするな千鶴の為だ」
「わかっているよ」
「…今日は早く寝ろよ」
「まだまだ付き合ってよ、お兄さん」
「お兄さん言うな」


俺は甘くなってしまったのかもしれない。これはきっと気まぐれだ。そうに決まっている。目をひやりとしている空気で乾かした。くそっ、こんなサービスは今日限りだ。
感謝しろよ、なんて言うつもりは無いから安心しろ。






(きっと明日になればいつも通りの俺で居られるはずだ)




「じゃあとりあえず
"薫様万歳"って言え」
「バ薫様くたばって」
「鼻からビール飲ますぞ」

























「あのふたり何話てるんだろう?」
「男同士、積もる話もあるだろうからな。そっとしておいてやりなさい」
「知っているのですか?」
「ははは、察しはつくよ」
「?」




091214
白々

以前沖田と兄貴の話を読みたいと書いてくださった方がいましたので(^ω^)
このふたりは喧嘩するほど仲が良いっていう言葉がぴったりな関係だったらいいな。
ちなみに最後のは千鶴ちゃんとパパの会話だったりな感じです。てか敬語…。


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