土方

□未知なる横顔
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数人の厳つい男達の中にひとり、小さな姿が混じるようになったのは最近になってからだ。
隣に並ばせたそいつを見れば、
辺りを物珍しげに眺めていた。

「そんなに珍しいもんがあるか?」
「…やっぱり町は良いですね」
「そうか?」
「京に来る道中によく思っていました。人がたくさん居るのは楽しいです」
「…京もか?」
「はい!」

笑って頷くが、素直に受け取れないのは仕方ない。

「…あれを見てもか」
「えっ?」

すぐそこの路地裏を指差し見せれば千鶴の表情が固まった。

「都だの上級の言われちゃいるが現状はあのざまだ。今の京は江戸よりも、他よりも荒れている」

路地裏には餓えた人間。
大人も子供も関係ない。
そして存在すらも与えられない、誰の目にも留まらないんだ。

「貧しい思考だ。これは悪化する一方なんだよ」

たたき付けるように言いきった。
千鶴は硬直したように動かない。
……まだ早かったか。
しかし遅かれ早かれ知ることだ。それが今だった。それだけのこと。

「…土方さん、は……、
初めて知ったときに…どう思われましたか…?」
「お前と、同じようなもんだ」
「……っ」
「何処に行く気だ」

千鶴の腕を掴まえて止める。

「お前に何が出来る。数人助けただけで全てを救った気にでもなるつもりか?」
「そんなつもりは…!」
「なら生温い同情なんて抱くな。お前にはやるべきことがあるんだろうが」
「でも、」
「止めろ」

睨みつけ、僅かに力を込める。

「止めるんだ」

涙を溜めた目に気づき、
懐紙を渡す。

「そんな面して帰るつもりか?」
「……土方さんも」
「ん?」
「わたしみたいに止められたのですか?」
「言っただろう。お前と同じだと」

水分を含んだ懐紙の部分が濃い。
進み路地がある度に千鶴は目を逸らさずにいた。
本当によく似ていやがる。
誰とは言わないが、本当に。

知らない内に蝕んでいく不気味なものに怯えるのは、最期だけでいい。

幼さの残る眼で、この先こいつが見ていく世の中に少しだけ興味が湧いた。








(見え隠れする赤い目が寂しい)










091205
虚言症

最近何を書きたいのかわからなくなってきました。どうしよう…。


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