複数

□いつまで経っても少年の眼
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竹蜻蛉がひとつ、飛んでいた。

くるくると回り空を切るように飛ぶ姿をただ見ていた。
またひとつ飛んできたと思えば、更にもうひとつ、ふたつ。
賑やかな子供特有の高い声を辿っていけば、境内で子供達に囲まれて竹蜻蛉を飛ばしている総司が居た。
すごい!もっと!とせがまれている様子を遠目に見ていた。





「総司、」


しばらくして子供達が竹蜻蛉片手に帰って行った後、やっとひとりになった総司に溜め息。

「なに遊んでんだよ」
「久々に竹蜻蛉を作ってみたら楽しくなってね」

そう言いながら手はまた新しくそれを形作っていた。
ひとつあげるよ、と渡された竹蜻蛉は店で売っているものと微妙に違う。そう考えていたのに気付いたのか、その形の羽の方が真っ直ぐ飛ぶんだよ、と飛ばして見せた。

「土方さんが呼んでた?」
「分かってんなら逃げんなよ…」
「だって新入隊士の稽古つけろ、なんて言うからさ」

僕が相手すると皆揃って嫌そうな顔するんだよ。
そう言ってクスクス笑い、小さな刃物でまた竹を削り始めた。


「平助はこれからどうなっていくと思う?」


らしくない唐突な質問に不自然な聞き返しをしてしまった。
同じ場所に居ようが見るものはそれぞれに違う。その意見を聞こうが聞かまいが結局は自分の意思が全てなのに…。
俺も俺らしくない気がする。
そもそも俺ってなんだ?
竹蜻蛉の羽を右に回しては左に回してを繰り返す。
指同士が擦れる感触が鬱陶しい。


「そんなの分かんねえよ…」
「ふぅん。平助は伊藤先生が来たから何か変わるものかと思ってたよ」
「、!?」


すぅ、と竹蜻蛉が飛ぶ。
隣に座る総司を多分俺は睨みつけていただろう。
それなのにこいつは笑っていて。
悔しいし情けないしで自分の唇を血が滲むまで噛んだ。



「僕は近藤さんの障害になるもの全てを取り除きたいだけ。
…君は、それにならないでね?」



ぱきりと竹の羽がひとつ落ちた。
割れる音がやけに響いて、夕方の賑わいを静寂にすり替えてしまったように音が聴こえない。

無邪気に殺意を込めた眼に手は汗ばむのに口の中は渇いてくる…。



「そうだ、どっちが高く飛ばせるか勝負しようよ」

急に変わった態度に体が一時停止した。

「……高く?」

遠くじゃなくって?

「うん。高く」

さっきから頻りに指で回していたそれを両手に挟むと総司は待っていたかのように掛け声をかける。

「せーのっ」

まるで子供みたいだ。
飛んだ竹蜻蛉は高くとはいかず、俺のはもう地にあった。

「僕の勝ちだね」

飛び続ける竹蜻蛉を見つめる総司を自分よりは年上ながらも幼いと感じた。口にしたら………なんて安易に結果は想像出来るから絶対言わないけど。

「帰ったらまた土方さんのうるさい説教か〜」
「なら逃げんなって」
「お迎えご苦労」
「うっわ、むかつく」

疎らにある竹蜻蛉を拾い集めて、やっとで帰路に着く。
俺も説教されんのかな、なんて重い気持ちをズルズル引きずりながら総司の作った竹蜻蛉をひとつ、懐に入れた。















いつまで経っても
少年の眼

(俺たちは若すぎんのかな?)












091123
虚言症

アサギ読んで竹蜻蛉で書きたくなっただけです。
静かな平助くんは書いていて不安になりました…。


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