沖田

□言うだけだよ
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「殺しちゃおうかな」

口ぶりは楽しそうに。
いかにも余裕があるかのような態度で、千鶴ちゃんにそう言った。
別に千鶴ちゃんに対しての言葉ではなかった。
けれど体を縮こまらせて無意識に構える姿を見て益々楽しくなってしまう。

「冗談だって。そんなに身構えないでよ傷つくなぁ」
「…傷ついているようには見えませんよ」
「うん」

そう答えた。
傷ついてはいないけれど、
"斬る"とか"殺す"とか自分が言う度にぎちぎちと心臓に鎖が食い込んでいくような気持ちになるのは確か。

そんなことを考えたまま聞いた次の一言に、このまま脳が停止してしまえば良いのにと思った。

「わたしの存在が迷惑になれば、いつでも殺してください」

それは以前僕が言ったこと。新選組の妨げになる存在となれば斬る、と。
なのに"どうして?"と思う自分が居る。

「…うん」

それにも自分にも理解出来なかったから、とりあえずの相打ちだった。なのに、

「ありがとうございます」

また。僕の脳内を虐めるようなことを言う。

「お礼の意味がわからないよ」
「いいえ。これでわたしを斬る人を頼めましたから」
「僕が斬れるかなんてわからないよ?」
「わたしを殺すのは、沖田さんです」

どうして言い切れるの。
そんな目で見たのが分かったのか、千鶴ちゃんは

「そんな、気がしただけです」

そう答えた。
ねえ、知ってる?殺された人は自分を殺した奴のことを永遠に忘れないんだ。
僕は忘れてしまうかもしれないのに、君は殺されたら僕のことを覚えていてくれるの?それって凄く魅力的なことなんだよ、僕にとっては。
本当に僕が君を斬ってしまいたくなるときが来てしまうのだろうか。義務でも殺意でもない気持ちで。

これは、なに?

君は僕をこんなにも狂わせる存在だった?
いや、違う。君は僕に何を望んでいるの?何を見ているの?そんな汚れも知らなさそうな瞳に僕の何を写している?
疑問符ばかりが浮かぶ。
僕はちゃんと言ってくれないと理解出来ないんだ。
意味がないなんて思わないで、言ってよ。
僕みたいに、冷たく感じるものでも良いから…。

千鶴ちゃんが笑った。

「…なんで、笑うの」

それを発したと同時に千鶴ちゃんを抱きしめた。
見た笑顔が、悲しかった。そして酷く穏やかだった。それに腹が立って少し力を込めて閉じ込めた。

「僕が、君を斬るよ」
「はい」
「でも絶対じゃない」
「…」
「約束して。自分から死を近づけさせるな」
「はい…」

なんて狡い約束。
散々"斬る"なんて言っておいて今更だよね。
自分の幼さに恥ずかしすぎて吐き気がする。

細すぎる。
見た目からだけど、改めて感じた。これ以上力を入れたら折れてしまうんじゃないのかな。なんて。
それでいてしっかりと両足で立っている。
なんて女の子だろう…と、妙なところで感心してしまうあたり僕も可愛い奴だ。

ああ、そっか。
きっと同じようなことを考えていたんだろうね。
その証拠に背中に回された手に力が篭るのがわかる。

それなら僕は君に望もう。

「それでも死にたいなんて言うのなら、」

この白い肌が枯れてしまわないように、染み込ませてあげよう。

















(臆病な僕を許して)

















「抗って、生きてみなよ」












それになみだを流す価値なんて無いのに。

そして、自分自身にも無いことくらい知っている。











091117

沖田さん目線


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