沖田

□言うだけだよ
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その人はわたしに決まって笑顔で斬ると言う。

「殺しちゃおうかな」

ほら、また。
言葉は違えど右手はしっかりと刀の柄に添えられているから意味は同じだ。
わたしに対してのは勿論、人に対しての殺意もわたしに向かって言ってくるから反応に困る。

「冗談だって。そんなに身構えないでよ傷つくなぁ」
「…傷ついているようには見えませんよ」
「うん」

そう、笑顔で言う。
どうしてですか?
不意に泣きそうな寂しそうな怒りそうな狂いそうな、そんな表情をするあなたを見つける度に思うこと。
勘違いなのかもしれない。思い上がっているだけなのかもしれない。
それでもあなたはわたしに弱みを隠すのですね。

「わたしの存在が迷惑になれば、いつでも殺してください」

半ば無意識に発した言葉はきっと本望なのでしょう。

「…うん」
「ありがとうございます」
「お礼の意味がわからないよ」
「いいえ。これでわたしを斬る人を頼めましたから」
「僕が斬れるかなんてわからないよ?」
「わたしを殺すのは、沖田さんです」

どうして言い切れるの。
そんな怪訝そうな不思議そうな目でわたしを見る。

「そんな、気がしただけです」

わたしを殺すのはこの人。
そして生かすのも、この人。

言葉にはせずに、それを飲み下して笑った。

「…なんで、笑うの」

途端に視界が動き掠れた。
目の前には見慣れた着物と少し出された肌。
力と熱を感じる体の部分に抱き寄せられたのだと理解した。
普段ではまず聞くことのない、弱々しい声が頭の上から聞こえた。

「僕が、君を斬るよ」
「はい」
「でも絶対じゃない」
「…」
「約束して。自分から死を近づけさせるな」
「はい…」

なんて細い人なのだろう。

あんなに大きな背中だと見ていたこの体は、脆くて、すぐに崩れて壊れてしまいそう。
お互い、似たようなことを考えていたのでしょうね。
背中に回した手で皺をつくり握りしめた。

「それでも死にたいなんて言うのなら、」

至極穏やかな声音。それはまるで、うたうように。

















(だってあなたは優しすぎるから)

















「抗って、生きてみなよ」












消え入りそうなそれに

なみだを流した。











091117

死にたい、じゃなくて。
ただ、あなたの心からの笑顔が見たいだけです。


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