★★★

□たまには昔を振り返って
1ページ/1ページ

「おーい雪村くん」

手持ち無沙汰で外をぼーっと眺めていたら、聞こえたのはわたしを呼ぶ近藤さんの大きな声。
はい。と返事をしてすぐに立ち上がろうとすれば、いつの間にかすぐ隣にまで来ていた。
そのまま腰を下ろし、わたしにも座るよう促してくれた。

「す、すみません!」
「いやいや呼んだのは俺だからな。そうだ、おひとつどうかな?」

若葉色の混じる蜜柑をひとつ、手の平に載せてもらった。甘く薫る柑橘系に自然と頬が緩む。

「いやぁトシがな、俺に仕事をくれないんだ」
「…そうなんですか」
「昔っからだ。あいつは自分ばかりに苦労させて俺には表立つことしかさせない」
「尊敬されているんですね」

そんな深い繋がりや信頼があるなんて羨ましい。
蜜柑をひと房口に頬張りながら近藤さんは続けた。

「俺にとってあいつらは己の命よりも大切なもんだ。秤にかけるなんざ可笑しいだろうがな」

眉間に皺を寄せ笑う。
土方さんが皺を寄せるときは難しい顔をしているときが多い気がするけれど、近藤さんは笑うんだ。
ふ、とそう思ってしまった。

「近藤さんは、皆さんのことをたくさん知っているのですね」
「あっはっは!雪村くん、それは違うよ」
「違う…ですか?」

ふぅと一息入れて空を見た近藤さんの横顔はとても穏やかだった。
つられてわたしも空を見上げる。
浅葱のいろが一面に広がっていた。

「あいつらは自分のことなんて、ひとつも話さねえのさ。あいつら唯一の共通点だな」
「そうなんですか…」
「必要最低限のことしか言わねえんだ。俺がそれ以上聞こうものなら口を揃えて"俺の話はいい"だ」

そう言われたら、思わず頷いてしまった。
近藤さんは残りひとつになった蜜柑の筋を丁寧に剥がしている。
わたしの蜜柑は依然両の手で温められている。ぬるい蜜柑はあまり美味しくないというのに。

「俺はあいつらのことを何も知らない」
「……」
「トシや総司、源さんは昔馴染みだからよくは知ってる。でもそこまでだ」
「原田なんて、腹を詰めたたことくらいしか知らん気がする」

わたしは黙って聞いていた。

「だから俺は自分の話をしてやろうと思った」

そう言った近藤さんを見て、
なぜ皆が慕い、尽くすのかがぼんやりとなら分かっても良い気がした。

「近藤さんのお話はどれも楽しいです」
「そ、そうか?そう言ってくれるのは雪村くんだけだ」
「ふふ、そうなんですか?」
「こうやって話を聞いてもらうっていうのは悪いことじゃなものだな」
「はい」
「よっし!じゃあちょっと長い昔話に花を咲かせてもいいかな?」
「是非聞きたいです!」

聞いた話は江戸に居た頃から最近のこと。
話の内容は話が進み聞く内に、近藤さんも人のこと言えないですねと思った。
家族のこと、土方さんや沖田さんのこと。進むべき道で出会った人たちのこと。仲間のこと。
皆この話を聞いてしまったら話す必要が無いくらいよく人を理解出来ていると思うような、嬉しさ。
聞いている方が笑顔になれる。

手の中にあった蜜柑はまだ、
薫り続けてくれていた。






たまには昔を振り返って




(そうだ雪村くん!多摩に伝わる踊りを見せてやろう!)
(えっ?)
(トシに歌ってもらって源さんと踊るかな)
((土方さんがっ!!!?))






091115

男に認められる男はすげぇ


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ