土方

□霜焼け日和
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パリっと薄い氷が割れる音がする。
もうこんな季節になったんだと思えば吐いた白い息が答えてくれた。
ヒビの入った氷が張ってある盥に、さてどうしたものかと腕を組んでみる。
洗濯を済ませて朝食を作りたい。この位の氷なら、と近くにあった石で削ってみたけれど敢え無く断念。
はぁ。白く長い息が宙に溶けていった。



もしかしたら…

洗濯物を抱えて少し歩いて行けば、私とあの人を癒してくれたこの地の水が音を立てて向かえてくれた。

やっぱり!

ここなら洗濯出来ると思った予想は的中し、ありがたく洗濯をさせてもらうことにした。あ、冷たい。
じんわりと芯にまで届くような冷たさに鳥肌が立ったけれど、綺麗になっていく物を見てしまえば気にもならなくなるもので。夢中になって洗濯をしていた。






「……ふぅ。終わったかな」

後はお日様の下に干したら気持ちいいよね。
さぁ帰ろうと洗濯物を持とうとしたら、今の今まで横にあった洗濯物が消えていた。

「え、えっ!?まだ乾いてないのに!!?」
「そこかよ…」

だいぶ薄くなった白い吐息が見えて声の元を辿れば、洗濯物片手に立っている歳三さん。眉間には小さな皺が寄せられている。

「いつになっても帰らないと外を見てみれば居ねえし探しに来てみれば気づかねえし」
「す、すみません…!」

恥ずかしい…
凄く独り言を言っていた気がするからもしかしたら聞かれているかもしれない。

「謝ることじゃねえよ。
…それより、」
「それより?」
「それ」
「え?」
「手」

手?
何も付いてないけれど…
じっと自分の手を見ても、歳三さんの言いたいことがわからない。手と歳三さんを交互に見れば、溜め息混じりに手を握られた。

「やっぱり冷えきってるじゃねえか」

かけられた息がやけに熱くて、じんじんする…
感覚に鈍感になっている手が僅かに熱を帯びた。

「洗濯をしていました」
「そんなん見りゃ分かる」
「盥に氷が張っていたんです」
「昼間にやればいいじゃねえか」
「昼間は太陽いっぱい浴びて乾いて欲しいです」

歳三さんの着物の袖に手を入れられたままの体勢。
変わらず眉間には皺が寄ったまま。
再び聞こえた溜め息は、さっきよりも優しく思えた。笑ったときにやる癖なのか、下がる眉が可愛らしく思えて、にこり。

「すぐに朝食の用意をしますね」
「後でいい」
「でも…」
「今は、こっちが先決だ」

繋がれたままの手に力が込められる。

「霜焼けになっちまうだろうが」
「そしたらまたこうして温めてください」
「…言うじゃねえか」
「ふふ、」

やっと少し動くようになった指で互いを絡める。
そのままゆっくり、ゆっくり歩いて帰る。
これからの季節にまたひとつ楽しみが増えた。

霜を鳴らせば貴方は私を確かめてくれた。







霜焼け日和

(またひとつ、熱)





「そんなに霜焼けが辛いなら万能石田散薬をくれてやるよ」
「…………」
「そんな真剣に考えんなって…」













091104

あっためてもらっちまえ


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