□神化する幸福論
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神化する幸福論


久しぶりに夢を見た。
普段は記憶に残りはしないのに何故か今朝の夢は鮮明に脳へと保存された。
溜め息のような欠伸をして起き上がり襖を開き庭を眺める。世が忙しなく変化していく中で、ここだけ空間が別なのではないかと怖くなる程に穏やかだった。
縁側の柱に寄り掛かれば小鳥が足元でなにやら話している。小首を傾げてちょこまかと動く様子は見ていて面白い。
庭に目を戻せば何やらまた不可解な行動をしている千鶴が居た。小川をじっと見ている。

(……何をしているんだ)
考えてみるが理解出来るはずも無く、暫く見守ることにした。
しかし一向に動く気配が無い。
足元はいつの間にか静かになっていた。

「何をしている」
「千景さん!おはようございます」
「……」

相変わらずよく分からない女だなと小川を見るが、何も興味を引くものは無い。
寧ろ千鶴の方が面白いのではとひとり笑いを堪える。

「この時間帯は水面が朝日に照らされて綺麗なんです」

淡く輝くそれに花をひとつ流してやれば、負けず劣らず美しい表情で笑った。

「この花も今の時期が一番咲き頃なんです」
「そうか」
「風も心地好いですし、何より景色が綺麗なんです」
「そうだな…」

嬉しそうにあれこれと話す姿は普通の娘。飾られた着物を着るよりも自然に出るありのままの姿が一番こいつらしい。

「私、ここに来て好きなものたくさん増えました」
「例えば何だ?」
「……千景さんです」
「………俺?」

柄にもなく驚いた。
中々働かない頭を必死に働かせれば出てくるのは今朝見た夢。
ハッと息を飲めば千鶴が俺の背へ寄り添っていた。

「…あの人たちと別れてしまって、何も残らないと思ってました」
「…」
「僅かに共にしただけの刻。それでも私にとっては掛け替えの無いものでした。それは今も変わりません」

でも…

引っ張られた裾に振り向けば変わらず笑顔の千鶴。
続くだろう言葉を静かに促す。

「私は貴方に出会えました」

今朝見た夢。
それはあいつらを探すお前が居た。
俺はそれをただ見ているだけだった。
夢でお前は泣いていた。
何度も何度も。出ない声を張り上げて呼んだのは俺。
今笑っているのは千鶴。
そしてそれをまたただ見ているしか出来ない俺。

「…お前は好きなものが多いのだな」

それは純粋に出た言葉。

「はい!」

それを受け止めてくれるお前が
果てしなく愛おしいのだろう…



ああ、ああ。そうか。

俺もまた単純な生き物だっただけだ。











091031
虚言症

ちー様は難しい


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