藤堂

□はじまりのはじまり
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いつだって俺が何かを始めるきっかけになるのは千鶴だった。
自転車に乗れるようになったのだって千鶴に教えてやりたかったからだったし、苦手だったピーマンを食べるようになったのだって、千鶴に凄いと思われたかったからだ。ガキながらに色々と考えてやっていたものだと感心してみる。
小学生の頃、千鶴をからかう上級生の野郎を殴ったことがある。許せなかった。千鶴を守るのはいつも俺だけだと思っていたからこの行動だって千鶴は喜ぶはずだと思ったんだ。
でも千鶴は泣きながら俺を止めた。体格差もあってギリギリだったが負けてはいなかった。しかし止められて気付いた。もう少し殴り続けていれば、相手は間違いなく大怪我をしていた。ハッとして傷だらけになった手を見れば千鶴がしがみついていた。

「(何で、泣いてんだよ)」

わからなかった。いつだって俺がすることには笑顔になってくれた千鶴が、泣いている。それから千鶴に悪い意味で手を出す輩は居なくなった。まぁ今は総司とかがちょっかい出してくるけど根が悪い奴じゃないし信頼できるから心配ない。…と思う。
高校生になってもこの関係は変わらなくて。それが嬉しいのか悲しいのか、よくわからない。だって昔からだけど最近の千鶴はすごく可愛い。背丈だって変わらなかったのに、今は俺のが大きい。ちょっとだけど。遅刻しそうになって繋いだ手は小さくて細くて。あの頃の感覚とだいぶ違う。必死に離すまいと力を無理矢理込めていたのに、今じゃそんなことしなくたってすっぽりと収まる。自分の手を見ては開いたり閉じたりしてみた。

「そりゃアレだ。恋だ」
「……鯉?」
「ベタなツッコミ入れさせんじゃねえよ」

そんな話を左之さんにしてみての一言。こい?恋愛の方だと呆れ気味に言われただでさえ中身の無い脳が混乱する。きっと今脳細胞が殴り合いしてるんじゃないかってくらい頭痛がする。

「お前は千鶴が好きなんだよ」
「何でそんなこと言えるんだよ」
「じゃあもしも千鶴が知らない男に絡まれてたらどうする?」
「そりゃあ助けるよ」
「千鶴が笑いかけてきたら?」
「笑うよ」
「そんじゃ、千鶴が好きだって言ってきたら?」

そこまで言われてやっと自覚した俺って馬鹿?
左之さんはニヤニヤと笑っていやがる。いつもなら突っ掛かるところだが今はそんなことより気付いてしまった気持ちに思考がついていかない。

「…じゃ、千鶴に彼氏が出来たらどうするよ」
「……奪い返す」
「ようやく気付いたなぁ。ったくいつもお前はどっか抜けてんだよ」
「本当。俺もそう思う」

いつだって何かのはじまりのきっかけは千鶴だった。まさかこれもだなんてな…可笑しいような嬉しいような。ま、後者なんだけど。

「その辺の奴らに取られんなよ」
「…左之さん狙ってる?」
「さぁな」
「ちょっと!」

冗談じゃねえよ。左之さんなんかすぐに手出しそうじゃんダメダメダメ!千鶴は俺が守る。
そうと決まればすぐ行動するのが俺の良いところだよな。うっし。

「千鶴に言ってくるわ」

そう言いながらドアを開けるとまさか千鶴が居るなんて思わねえじゃん。左之さん笑ってやがるしまさか作戦?いやいや落ち着けって俺。すぅ、と息を吸えば真っ赤な千鶴と目が合った。

「(やっぱ好き…なんだよな、俺)」

手を握ればどちらとのわからない熱が浸透してきた。






091025
策士左之助(笑)


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