★★★

□風は届く
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戦争が終わった地にいつも来ては刃が毀れた刀や必要となくなった食料を探していた。まるで人の肉を喰らう烏みたいだった。
あの日も俺は当然のように来ていた。
最近ここらで続いていた戦争だったが、どうやら近い内に終わっていたようだ。重なり合う骸の懐を慣れた手つきで荒らす。悪いとは思わなかった。自分が生きていく為だと言い聞かせて今までそうしてきた。

「(……人)」

珍しいことじゃない。
自分のように死人から物を取り生きているような奴は居る。だがどうも様子が可笑しい。
近づいてみればそれは女の人で、…泣いていた。

綺麗だと思った。

今までに見たこともない位美しい、女の人。
一見すれば男とも見えそうな服装だったが、俺は一目で女だと気付いた。
思わず見とれていたからかその人はこちらに目を向け月色の双眼に俺を映した。そこに映る自分は対照的に薄汚れているただの餓鬼で、恥ずかしくなって顔を背けた。

「……こんな所にどうしたの?」
「…………」
「親御さん、は?」
「…居ねえよ」

長い睫が瞳にかかり小さく謝った。謝られる理由が分からなくて、ただ頷いた。

「あんたも、一人なのか?」

あの頃は人の気を察するなんてことは出来なかった。少し考えれば分かるはずだったんだ。こんな場所に女ひとり居るなんて…と。
そう聞けばその人は今にも消えそうな笑顔で頷いた。

「身寄りは無いの?」
「えっ?」
「君も一人なのでしょう?」
「……うん」
「…なら、私と一緒に行かない?」

それは、この場所には似合わないほど穏やかな声音だった。断る理由は無かったし、何よりこの人が一人なんだと考えれば不安で仕方が無かったんだ。
俺は二つ返事をした。
その瞬間吹いた風に誰かの声を感じた気がした。





最近は俺の方が背も高くなり頼もしくもなった。
千鶴さんは俺の黒髪を綺麗だと言う。その言葉は俺を誰かと重ねているのか本心なのか。そんなことを考え出すようになって気づくことがあった。あの時あの場所に居たのは、千鶴さんと誰かだということ。その誰かは千鶴さんにとって大切な人だったということ。
いつか話してくれる日がくるのか。くるなら俺はそれをどう受け止めるか。

「ただいま」

歳月が経っても千鶴さんは綺麗だった。俺は千鶴さんの誰かに代わってこの人の縋りになればいいと、そう思うようになった。
吹いた風はあの時のように生暖かった。









091022
091028改正
誰かは想像にお任せします


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