永倉

□幸せひとつ
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今日は朝からツいてない。まず目覚ましのアラームを設定し忘れ寝坊寸前。髪をセットしようとワックスに手をのばせば中身はからっぽ。急いで電車に乗れば満員電車にも関わらず新聞を豪快に広げて読むオヤジが横に立ちやがった。しかも新聞の角がチクチクと微妙に手にあたり痛いやら痒いやらでイライラも振り切れ寸前。辛うじて耐えながらも"閉じろよ"と睨みを利かせれば何故か周りの奴らが一歩引いた。会社に着けばこれまた何故か上司が機嫌良く俺に延々と自慢話に花を咲かせる。やっと自分の席に腰を落ち着かせられたのはいつだったか。とりあえず腹が空いていたのは覚えている。

「厄日だな」と左之が笑いながら食堂に向かって行った。うるせーよバカ左之。本日二度目の睨みを利かし机に突っ伏した。頭に思い浮かぶのは千鶴ちゃんのこと。いつもなら朝同じ電車で話ながらの素晴らしい出勤なのによぉ。〜〜あああああああ俺って馬鹿!今は平助よりも馬鹿なんじゃねえのか!!?
やる気の起きない情けない自分。左之が言った厄日も肯定できちまうなこりゃ。

額を机に付けたまま居るとぶるぶるとポケットの中で携帯が振動し始めた。誰だこんな昼間に。左之か平助だったら後で絞めてやると思いながら携帯を開くと、目に映ったのは脳内一面を支配していた存在で。慌てて通信ボタンを押してもしもし?なんて言えば声がひっくり返りやがる。かっこわりぃなー俺。

「こんにちは、新八さん」

ただ彼女の声が聞けただけなのに気分はどん底から有頂天。てか、有頂天ってどんな意味だっけ?とにかく最高ってことに違いねえ!

クスクスと笑う彼女が電話越しなのが憎い。今すぐ会いてえな。よし、今日あった愚痴聞いて貰おう。情けねえけど口実には持ってこいだろう。そしたら礼に飯でも奢ろうか。そうと決まれば今は千鶴ちゃんで充電!電話を切ったら急いで仕事を終わらせよう。


あー俺って幸せ者だな。









091017

千鶴ちゃんに「新八さん」て呼ばせたかっただけ


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